我想展示
龍玉と虎碧はそれぞれ、いつでも抜剣出来るよう臨戦態勢で空を見上げる。
「おぼっちゃん、何とかならないの!?」
龍玉は聖智の横に並んで、貴志を見据え。その少し後ろで虎碧も、じっと貴志を見つめる。
(なんとかしなきゃ!)
焦れるもどかしい気持ちを禁じ得なかった。
志明や瞬志に、役人や召使らも、恐慌をきたすのをかろうじてこらえて、貴志をじっと見据えていた。
「まずそうだ!」
あらぬ叫び声が轟きわたる。
「まずそうだ!」
その叫びは、鳳凰の天下から発せられていた。鵰の背の穆蘭に対しても放たれているようだ。
意味は分からないながら、地上の者たちの多くはますます恐怖し。理も非もなく、突発的に駆け出し逃げ出す者が続出した。恐慌をきたしたのである。
「うまそうだ!」
恐慌をきたして逃げ出す地上の人々を見下ろし、鳳凰の天下は会心の雄叫びを放った。
すがる子どもを蹴飛ばし逃げる父親や母親、老いた母親や父親を見捨てて逃げる息子や娘たち。その他もろもろ、目をそむけたくなるようなことが多く繰り広げられて。
恐慌は人から人の心を吹き消して、獣同然に変える。それは鳳凰の天下にとって、格好の餌だった。
「聖智さん!」
「は、はい!」
貴志は意を決して、聖智を呼び。筆の天下を差し出した。差し出されて、聖智は思わずきょとんとする。
「この筆で、あなたが思うことを描いてみてください」
「私が、この筆で?」
不思議な筆である。その不思議さは貴志が使うからだと思っていたが、まさか自分が託されようとは。
「早く、さあ!」
貴志らしくなく、強引に筆の天下を押し付け。聖智はやむなく軟鞭を腰に巻いて、筆の天下を受け取り、筆先をまじまじと見やる。
周囲の視線も痛いほど感じる。貴志に対して不審を覚える者もいようことは、容易に察しがついた。
(ええい、ままよ!)
あれこれ考えるいとまはない。聖智は意を決して筆の天下を握りしめて、大きく振りかぶった。
そうすれば、金色に光り輝く何かが、まるで金の墨汁のように筆先から迸り出て。そのまま空へ空へと、あっという間に舞い上がった。
それは舞い上がりながら、何かの形になってゆく。
「鳥!?」
誰かが言った。それは鳥の姿になりつつあった。やがて、豪奢な尾羽も見受けられるようになっていった。
「鳳凰!?」
そう、その金の墨汁は、なんと鳳凰に姿を変えたではないか。
その嘴から、猛禽類のような雄叫びが響き。鵰の背の穆蘭も呆気に取られながらも、
「す、すごい」
と、素直に驚嘆した。




