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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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我想展示

 さて、香澄といえば。

 光の中に飛び込んでみれば。

「……」

 ひとり草原に佇んでいた。

 右手に七星剣を握りしめて。

 空は雲一つない青空が広がり、暗闇との落差が痛いほどだ。

 チマ・チョゴリの袖や裾が、そよ風になでられてすこし揺れる。それと同じように香澄の黒髪もすこし揺れる。

 草原の、足元の草たちも、同じようにすこし揺れる。

「……」

 ここはどこなのだろう。

 周囲を注意深く見渡すも、どこだか見当もつかない。何もないだだっ広い草原でしかなかった。

 一見爽やか。空も雲ひとつない青空が広がり、太陽が下界を照らす。

 そう、ひとときの間くつろぐだけならば。いいところだ。

 ただ、もし、ここに永遠にいなければならないとなれば。

 他の人はおろか、生き物の気配もない。

 爽やかさを感じるのははじめだけ。やがて孤独にさいなまされる。なにより、見よ、空にふたつの太陽。

 真上にひとつ。西に沈みそうなのがひとつ。

 並の者なら、ここはたちまちのうちに地獄となるであろう。

「……」

 香澄は、沈みそうな西の、もうひとつの太陽の中を見つめる。

 目を凝らせば、その太陽の中に見えるのは、蜘蛛の巣の網にかかった四人。源龍と羅彩女、リオンにコヒョ。

「調和が乱れている……」

 香澄もこんなことは初めてだと言わんがばかりだった。

「……」

 右手に七星剣を握りしめたままかがみこんで、左手を伸ばして、地面に触れる。

「本当の姿を見せなさい」

 他に誰もいないにも関わらず、香澄はそう声に出して言った。そうすればどうであろう、一見爽やかな草原風景が、みるみるうちに岩盤の地面の殺風景なところに変ってゆくではないか。

 でこぼこの岩盤の地面には、香澄の顔よりも大きそうな石や岩に、その小指の先ほどの小石など、ばらばらに転がっている。迂闊に歩けば足を取られそうだ。

「これが本当の姿……」

 足元の小石をつまみ、じっと見つめる。

我想展示ウォシァンチャンシィ」(見せたい)

 香澄はぽそりとつぶやいた。

「あの草原が見せたかった姿……」

(哀れな……)

 不毛の岩盤の世界が、草原になりたかったなど。

 空は分厚い、灰色の雲が覆う曇天。

 じっと、空の曇天を見上げる。その分厚い雲から抜け出すように降下する光。源龍と羅彩女にリオン、コヒョを捕らえる蜘蛛の巣だ。それが光に包まれていた。

(世界樹が守っているのね)

 光に包まれているおかげで、あの分厚い雲の影響を受けずに済んでいると理解した。世界樹も、必死に、出来ることをしているのだとも。

「……哀れな」

 香澄は曇天の分厚い雲の一部を眺め、思わずぽそっと、そう呟いてしまった。

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