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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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餐後危機

 きょろきょろ見渡せば、そこにいるのは、香澄に源龍、羅彩女にリオンとコヒョの五名である。

「オレたちゃそのままかよ」

「ここでなにしろってのよ」

 などと漏らすが、空を見上げれば雲の皇帝もそのまま地上を見下ろしている。

「おろろ~ん」 

 という不気味な声が響く。鳳凰に食われた者たちの魂の声だ。よかろうはずがなかった。

 香澄ですら、不快さをあらわにする。

「こいつをやれってか」

「まったく、人使いの荒い」

 言いながら源龍と羅彩女はそれぞれ得物を構えているが。

 リオンは青銅鏡をぎゅっと抱きしめる。雲の皇帝はこの青銅鏡を欲している。この青銅鏡は現世、人の世と異界を繋いでいる。青銅鏡を通じて人の世に行き、夢よふたたびと振る舞いたいがために。

 前に出くわしたときは、青銅鏡を源龍が割って。そこから霧となって辺りを包んで。包まれた源龍と羅彩女は宇宙に放り出され、そこから海鮮チゲに至り。さらにここに移らされた。

「まったく人をおもちゃにしやがって!」

「あたしらを弄んで。ぶちのめせるもんなら、そうしてやりたいよ!」

 鏡が割られた衝撃で霧になったとはいえ、雲の皇帝はなくなったわけではなかった。人の世ならぬ異界を彷徨い。世界樹の世界に侵入し、さらに人の世を目指して、雲の皇帝なりに悪戦苦闘しているようだ。

「それにしても、鳳凰に食われようとどうしようと懲りないなんて」

 コヒョは自分も過去が過去だったので、実感を込めてつぶやいてしまう。

 その雲の皇帝、姿こそ不気味だが、黒い霧が晴れてからは本当にただの雲のごとく空に浮くだけである。

「うーん」

 リオンが通心紙を手にして唸る。

「他へ行ったはずのマリーと連絡が着かないなあ」

 世界樹は黙して語らず。自分たちはおろか、ここにはいない面々の状況が全然つかめず。不安を禁じ得なかった。

 ここの五名で戦える者は、香澄と源龍、羅彩女の三名。リオンとコヒョは戦えない。

「僕は戦える力を放棄させられちゃったからねえ。まあ自業自得だけど」

 コヒョぽそっとつぶやく。

 それにしても、こうした睨み合いをいつまでせねばならぬのか。動かずとも、酷い緊張を強いられて精神的に疲れて、それが肉体にも影響を及ぼすのは不可避であった。

 そうだ、あの鋼鉄の火龍。源龍と羅彩女が乗って、あの鋼鉄の阿修羅と渡り合ったあの鋼鉄の火龍は。戦い済んで青銅鏡の中へ入っていってしまった。

 リオンは通心紙をふところにしまい、青銅鏡を覗きこむが。自分の顔が写るばかり。

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