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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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餐後危機

 貴志は青銅鏡をリオンに渡し、リオンも大事に抱えるようにして青銅鏡を預かった。

 またどこかに行かされるのかどうか、おそらくそうなるだろうと、心の準備をする。

 すると、空から咆哮が轟いた。雲の皇帝のではない。くうを揺るがし崩すようなあの不快な轟音は、あの、鋼鉄の阿修羅のものであった。

「狗野郎に蚯蚓みみず野郎までいやがるのか」

 源龍が忌々しくつぶやく。貴志は、あの鋼鉄の龍が出ないかどうかと鏡を覗きこんだが、やはり今はただの鏡で我が顔を写すのみだった。 

「うわッ!」

 途端に、足から地面の感覚がなくなり。急落下する。どこへ落ちゆくのか。などと考えるいとまもなかった。

 で、気が付けば。貴志とマリーに、龍玉と虎碧に聖智が慶群の庁舎に送り返されていた。というわけだった。

 しかし、どのようにしたのか、あの鋼鉄の阿修羅もが戻って来たではないか。


 鋼鉄の阿修羅は慶群上空を飛び、ぐるぐる旋回する。

 貴志、聖智は得物を構えて臨戦態勢を取るが。さすがに生身の身体で勝てる相手ではなく、貴志ですらひどく緊張を覚えているのがその眼差しから感じられた。

「あの鋼鉄の龍は?」

「わかりません。なぜか出てきそうになく……」

「なんだそれは」

 問われて貴志は力なく答え。問うた瞬志は眉をしかめる。

 鋼鉄の阿修羅はしばらく旋回して、どうするのかと思われたが、途端に光善寺方向へ、急降下するではないか。

「お寺をどうする気だ!」

 光善寺では元煥らが必死の思いで読経し、厄払いのための大法要をしている。それを潰そうというのか。

(ど、どうすれば……!)

 貴志は咄嗟に懐から筆の天下を取り出した。左手に剣、右手に筆を持つ格好になった。

(あ、そういえば、青銅鏡!)

 総勢十名のうち、ここにいるのは貴志に聖智に龍玉、中に控えるマリーと虎碧の、五名。青銅鏡はリオンに託して、そこから別れ別れである。

 あの通心紙というものでやりとりできるのか、とか考える暇などない。

 貴志は咄嗟に筆の天下を掲げれば、さっ、さっ、さっ、と右手が動くにつれて、宙に黒々とした墨の線が描かれてゆく。

 瞬志は、ふと、李家の邸宅での戦いで貴志の筆の不思議さを目にしたことがあったのを思い出した。

 筆の天下はどこで墨を含んだのか、宙に鳥の絵を、くまたかの絵を描き出した。墨痕も鮮やかに、黒々と、まるで水墨画の絵の中にいるような趣きある鵰が、描かれたのであった。

 が、それを描いてどうしようというのか。まさか鵰が鋼鉄の阿修羅と戦ってくれるというのか。

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