餐後危機
すると、どうだろう。なんと、あろうことか子どもたちは鏡面に反射した陽の光に照らされるや、次々と消えていなくなってゆくではないか!
「これは」
貴志は驚きのあまり身を硬くし。聖智は咄嗟に軟鞭を構えた。羅彩女は思わず腰を抜かしてしまった。
龍玉と虎碧も素早くそれぞれの剣を抜き、臨戦態勢。ちなみに龍玉は耳と九つの尾が出ていた。
源龍も打龍鞭を、ぶうんと唸らせて身構える。
リオンとマリーは貴志のそばで、ただただ驚くばかり。
「みんなはどこ行っちゃったの!?」
リオンもさすがに驚いて思わず声を漏らしてしまった。マリーは絶句。
「おかしいと思ったんだ! この世界も影響を受けてるのに、子どもらは呑気ににこにこ笑って」
空からコヒョが叫ぶように言う。
「おい、ここは普段どうやって難をしのぐんだ!?」
源龍がすかさず問う。その間に羅彩女は気を取り直して軟鞭を構えた。貴志もいつでも剣を抜けるように身構えた。
「子どもたちの中で、戦える子は戦って。必要とあらば、他の世界から助っ人を呼ぶこともあるよ!」
コヒョが空から答える。
「その助っ人が、オレらか!?」
「まあそんなところだね!」
「ってゆーかよー、世界樹えらそーなわりにはてめーで戦えねーのかよ!」
源龍は吠える。あれやこれやとなにかと巻き込まれて、飯もゆっくり食えなくて。勘弁しろよ! と世界樹に対し不満がいっぱい募っていた。
(色々あるんだなあ。話の辻褄も合ってなかったりして)
貴志は無駄口は叩かないものの、やはり世界樹に対し不満を禁じ得なかった。
と思えば。
「雲の皇帝だ!」
などと、コヒョは叫んだ。
「なにー!?」
「あの怨霊どもが!?」
源龍と羅彩女は世界樹の世界で、雲の皇帝と対峙させられたことがある。(第382部)
龍玉と虎碧は、別の世界樹の世界の池を通じて、雲の皇帝を見たことがある。
なんにしても、ろくでもないものだ。あの鳳凰の天下に食われた者たちの魂なのだというから。
あの時は、源龍の頭の中で「鏡を割りなさい」などという声がして。その声に従い鏡を割った。すると、雲の皇帝は悲鳴を上げて霧となって周囲を飲み込み。源龍と羅彩女は、なんでか宇宙にいて亀甲船の他の面々と合流し……。
そんな展開だったが。
雲の皇帝そのものは、なくなったわけではなかったのか。
果たしてコヒョの言う通り、風に乗って雲の皇帝が上空に姿を現した。
「ひゃー、相変わらず怖い!」
コヒョは慌てて着地して、皆の中に逃げ込み、雲の皇帝を忌々しく眺める。
「貴志、鏡からあの龍は出せねえか?」
「う、うーん。どうだろう?」
貴志は鏡の中を覗きこんだりしたが、自分の顔が写るばかりで、今は何の変哲もない青銅鏡だった。




