遇到公主
貴志でも、今まで学んだことを思い出して西方世界のことを考えるが。
「遠い世界の異なる文化文明圏か。うーん、確かに人の名前はそんな感じだったけど。うーん……」
と、想像しあぐねて。己の勉強不足を悔いていた。
そこへ、
「細かい事は、どうだっていいじゃないか」
と、世界樹の子どもが言う。ちなみに、この子どもは名前を明かそうとしない。
しかし、理解できるできないにかかわらず、世界樹はぐいぐいと強引に一行を導くから、あれこれ考えても仕方ないと、結局は観念するしかなかった。
ともあれ。
「人食い鳳凰が突然現れて、転生者も一緒。それに天下に食われた鬼も溢れて。このどさくさにまぎれて、うまく脱出できたよ」
リオンは愛嬌のよい笑顔で言う。
「それで、暁星には、何のために行くんだ?」
「うん、それは」
源龍の問いに、やはり愛嬌のある笑顔でリオンは答える。
「暁星の聖獣に会うためさ」
「聖獣!」
貴志はやはり目を丸くして驚く。源龍はやれやれと言いたげだ。
「で、今度はなんだ?」
「辰では窮奇と呼ばれているよ」
「翼虎か!」
貴志は驚く。
暁星において、虎翼は鳳凰に匹敵する聖獣である。が、それが人に仇なすのだろうか。
「窮奇だと!?」
源龍は身構える。羅彩女も同じように身構えた。鳳凰の次は窮奇、翼をもつ虎と戦わねばならないのかと。
貴志は源龍と羅彩女の身構えっぷりを見て、貴志は「あれ?」と思う。窮奇、翼をもつ虎は、暁星と辰において呼び名こそ違えど聖獣として崇められている。しかし源龍と羅彩女にとっては、そうではないようだ。
「虎にどれだけ食われたやつがいるか。それが翼をもつなんざ、余計に性質が悪いぜ」
強い者がさらに強くなるという意味の、虎が翼を得る、ということわざもあるくらいだ。
「虎とは、そんなに恐ろしい獣なのかい?」
貴志はそんなことを訊いて、源龍は苦笑する。
「お前は本当におぼっちゃまだな」
「そんな言い方はないじゃないか」
貴志はムッとした表情をし、源龍を睨み付ける。ともに武術達者な手練れ。この船の中で乱闘になれば、大変だ。公孫真は、まあまあ、となだめる。
「我らは都にあって、滅多に外に出ることもない身。虎や狼などの獣と対峙する庶民の苦労は相当なものなのですよ」
「そうなんですか」
暁星の都・漢星から辰の大京までの旅はそれなりに人数も護衛の武士もそろえた賑やかなもので、道中獣に襲われる心配はまずなかった。
そういった生い立ちのせいか、虎などの獣に対しての認識は庶民とずれたものになっていた。




