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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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餐後危機

「あの阿呆ら?」

「阿修羅ですよ、鋼鉄の!」

 貴志は瞬時に駆け出す。同時に穆蘭の七星剣が鞘から飛び出し、その柄を上手く握り取る。

「あの、阿修羅がまた!」

 瞬志と志明はまさかと思いつつ。貴志に続いて駆け出す。他の面々も同時に駆け出していたが。

 マリーはあろうことかへたりこんで、そばに娘の虎碧が臨戦態勢で付き添う。

「虎碧ちゃんはお母さんと一緒にいてあげて!」

「わかりました!」

(それにしても、変わりようがすごいなあ)

 子どもだったころは、生意気な口も聞いて、よく溌溂と動いていたのに。元の姿に戻った途端に、これである。

 ともあれ、虎碧とマリーを残して、貴志ら他の面々は駆けて外に出てみれば。あの、鋼鉄の阿修羅が、獣のような咆哮を轟かせて、空を飛んでいるではないか。

 地上、慶群キョンぐんは、それを見て大騒ぎで。鋼鉄の阿修羅の咆哮に負けないくらいの悲鳴が響き渡っていた。

 もう恐慌状態である。警護の兵すら、落ち着けと諫めるどころか、人民とともに恐慌をきたし。ひどい者は、卒倒して気を失う有様である。

「なんと……!」

 瞬志は咄嗟に抜剣し身構えるものの、人の身で勝てる相手ではないから、歯軋りし唸るしかなかった。志明は、あろうことかへたりこんで尻もちをついてしまい、さらにそこから起き上がれぬほどの衝撃を受けてしまっていた。

(情けない!)

 と自他ともに思っても、どうしようもない。兄を慮って貴志がそばにいてやり。「兄さんを中にお願いします」

 と警護の兵に頼んだ。

「すまん」

 脱力し身体が満足に動かない志明は、兵に担がれて中に運ばれてゆく。こんな時こそ代官として慶群を預かる志明がしっかりせねばならないのだが……。無理もないと、誰も必要以上に志明を責めなかった。

 貴志は穆蘭の青い珠の七星剣を見つめた。鋼鉄の阿修羅相手に効くかどうか、不安はありつつも、戦闘用の得物といえばこれしかないので、ぎゅっと柄を握りしめた。龍玉も同じく抜剣して青龍剣を構え。南達聖智も軟鞭を構えていた。

 鋼鉄の阿修羅は咆哮を轟かせるものの、地上に降りてくる様子はなく。ぐるぐると空を回って飛んで、地上を見下ろしている。

 

 時は遡る。

 海鮮チゲを囲んで、世界樹の元にいつのまにかチゲごと移らされて。

 満腹まで行かずとも、皆腹八分に達していたのは、不幸中の幸いであった。

 一同は椅子から立ち上がって、世界樹のもとに向かった。聖智は、ただただ、ぽかんとしてしまっていた。

「これは……?」

「うーん、どう話せばよいのやら」

 貴志は聖智の様子を心配しつつ、説明に困って苦笑する。

「大丈夫よ」

 香澄がそばにいて、優しく微笑む。

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