慶群帰還
「ふふ。源龍には必要なさそうね」
香澄は源龍の経験豊富さを察して、いたずらっぽく微笑む。源龍のそばの羅彩女は黙っていた。また茶々を入れて、次は香澄にたしなめられるような面倒ごとを避けたのだった。
「いいかな」
志明だった。
「海鮮チゲの支度が出来たぞ」
「おッ!」
源龍の顔がぱっと明るくなった。待ちに待ったことである。
一同は立ち上がって隅に寄り。召使いらが円卓と椅子を置いて。次いで台車に乗せられた鍋が持ってこられて、円卓に移される。
「すまんが、先に言った通り酒は無しだぞ」
「わかってるさ」
これからも大仕事をさせられるのだ。腹いっぱい食わしてもらえるなら、酒が無くても堪えられるというものだ。
リオンは本を放り投げて、
「わーい、海鮮チゲだ、海鮮チゲだ」
と、はしゃぎ。コヒョはやや呆れたような仕草で本を拾い。召使いに預けて。
「はしたないなあ」
と諫めた。
リオンは「まあまあ」と笑って誤魔化した。やはりご馳走は嬉しいものだが。リオンは素直に反応しすぎたか。
飲み物は茶から果実の汁を混ぜた甘いものまで、酒以外のものはひと通り揃えられた。
一同、待ってましたと、やはりご馳走は嬉しいもので、香澄までもが顔がぱっと輝いているようで、円卓を囲んで、鍋を微笑んで見つめて。
「いただきまーす!」
と、手を合わせ拝むようにいただきますと言って、喜々として食した。
「うーん、ぷりぷりのエビ、たまんなーい!」
「ほたてもぷりっぷり!」
リオンとコヒョは子どもらしく味と食感を楽しんでいた。一番楽しみにしていた源龍は、無言でひたすら食った。食った。食いまくった。
「……」
虎碧はいくらか食べた後、少し箸を休めている。どうしたの? とマリーが問えば、
「うん。このまま、時が止まってくれたらって。つい思っちゃった」
「……そうね」
今はどんな気持ちか。とても幸せだった。身も心も多幸感に包まれていた。しかし幸せは長続きせず。これからも試練があるのだ。
香澄は微笑みながら母と娘を見つめていた。貴志も同じように、微笑んで頷き。龍玉は、
「うーん、あたしゃ多少は刺激があった方がいいかなー」
などと、空気を読まぬことを言い放った。しかし虎碧もマリーも気分を害さず。むしろそんなことも幸せの一因にしていた。
「でも本当に、このまま時が止まってくれてもいいねえ。腹いっぱい食えるんだもの」
「そうだな。オレも賛成だ」
羅彩女と源龍は虎碧に賛同の意を示した。
聖智は不思議な気持ちが止まらない。箸も持たず、何も手を着けない。




