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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

「あの、お風呂はもう……」

 ふたりの話を聞いた召使いが、風呂はもう湯を捨ててしまったことを話した。

「じゃあ水浴びでいいや」

 と、得物を広間に置いて、構わず風呂場にゆくふたり。

「仕方がない。着替えを用意してあげて」

 貴志は苦笑しながら召使いに頼んだ。召使いも苦笑しながら「はい」と応えて。それぞれに合いそうな服を構えて風呂場に置いて。

 ややあって、水浴びをしてさっぱりしたふたりが戻って来た。いい感じに腹が減って、さっぱりして。自分らの居場所に腰掛け、壁に背中を預けて。

 うきうき海鮮チゲを待つばかりである。

 本は目に入ったが、ふたりは字が読めないので、関心を示さない。と思ったが。

「何の本を読んでいるんだ。読んで聞かせてくれよ」

 などと言う。

「これこれこういう内容の本よ」

 真っ先に香澄が「三国伝」の話をする。源龍は戦場を駆け巡った武人でもあるので、その内容に関心を示した。

「どんな本読んでんのよ」

 羅彩女はマリーと虎碧、龍玉の三人が顔を並べて読み入るのが気になった。

「え、かくかくしかじかな内容だよ」

 龍玉が言えば、思わず、

「愛だの恋だの、甘ちゃんだねえ」

 などと口走って。一瞬緊張が走った。三人は楽しんで読んでいたのを、冷や水を掛けられたような気分にさせられ、呆気に取らされてしまった。

「!!」

 その時、羅彩女は戦慄を感じた。香澄から殺気が迸るのを感じ取ったのだ。

(ああ、人の楽しみに茶々入れちゃって。あたしも野暮なまねをしちまったねえ)

 さすがに自分を省みて、

「ああ、悪かったよ」

 と気まずそうに離れようとしたが。そこをすかさず龍玉が飛び出し、羅彩女の首に腕を回して捕まえた。

 素早い動作で避けられなかった。

(なんて早い!)

 そこはやはり人外の妖怪だけはある、ということなのか。内心舌を巻きつつ抗議する。

「なにするんだよ!」  

「あんただって」

 周囲に聞こえない程度の小声で、羅彩女の耳元でつぶやく。羅彩女は顔を真っ赤にして、

「うるさいよ、その手を離しな!」

 と言うが。しっかと掴まって離れない。虎碧とマリーは、それを見て溜飲が下がるのを覚えて。羅彩女に抱いた悪い印象を払うことが出来た。

「うるさいって。そんな声出してないだろ」

「あ、あ、あんたにあれこれ言われる筋合いはないよ」

「ははは。まあ、いいや」

 意地の悪い事を言ってしまった羅彩女だが、それが照れ隠しから来るものなのを察した龍玉は、手を離した。ただその目は鋭く。

(また茶々入れたら容赦しないよ)

 と、妖怪らしい人心を突くような眼差しで訴えた。

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