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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

 その九つの尻尾を座布団替わりに、くつろぐ。虎碧は内心はしたないなあと思いつつ。目を閉じ、瞑想で時を過ごそうとする。海鮮チゲは楽しみだが、身も心も温存したかった。

 聖智はどうして良いのかわからず、迷う心を抑えるために腰掛け瞑想にふける。そのそばに、香澄とリオン、コヒョがいてやる。彼女を下手にひとりにしたら、恐慌に陥りかねない。

「あら、貴志さんは?」

 マリーは、貴志がいつの間にかいなくなっていることに気付いた。どこに行ったのか。娘のそばで腰かけ、床をぼんやり眺めながらくつろぐ。

 しばらくして、何冊かの本を抱えて貴志が戻って来た。海鮮チゲが来るまで、読書で時を過ごそうというのである。

「よければ、他の方もどうぞ」

 と、広間の中心に本を置き。貴志はこれと決めた一冊をもって隅に腰掛け、穆蘭七星剣を置いて、読書にふけった。

「ひゃあ、難しそう!」

「僕らには、暇つぶしになるどころか、頭が痛くなりそう」

 などと、リオンとコヒョは積まれた本を見て、そんなことを言い。貴志は内心苦笑した。

 貴志はなるだけ楽しく読めるもの、娯楽性が高いものを選んでもってきたつもりだったが。

 龍玉と虎碧とマリーは本のそばまで来て、題名を読み上げる。香澄は石のように固まって固く目を閉じ瞑想する聖智のそばにいる。

「三国伝」

「水辺の侠客の物語」

義賊洪甲煥ぎぞくホン・カッファン

「すごく素敵なふたり」

白羅実録ペクラシルロク?」

 虎碧はその白羅実録なる本を手に取り、不思議そうにする。彼女は大陸では巍、半島では白羅の時代の者だったから。

(あ、やばかったかな?)

 貴志はひやりとする。

 半島で親しまれる白羅時代の翼虎伝説イグホでんせつだが、それに伴い白羅に興味を持つ者も多く。その記録を集め、信ぴょう性の高い資料をもとに作られたのが、白羅実録という本で。多くの読書家に読み親しまれていた。

 白羅実録をはじめ、それぞれ巻数の多いものであるが、貴志が持ってきたのはいずれも一冊の本の要約された入門用のためのものだった。

 ちなみに貴志が手に取っているのは、「武人」という、辰に遣いとしてきた暁星ヒョスンの武人が、辰の公主を賊徒から救出した逸話をもとにつくられた物語だった。

「そうか、私は違う時代にいるのね」

 龍玉とともに虎碧は白羅実録の表紙をまじまじと見やった。簡素なつくりながら、題名は墨痕鮮やかに描き出されて、その題字の力強さから、読んでみようかという興味を引かれる。

 龍玉とマリーと、虎碧は三人で白羅実録を開き、文章を目で追った。

「亡ぶ時って、どこも同じような亡び方をするもんだねえ」

 龍玉がしみじみ言う。

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