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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

(逃げても、追いかけられるだろうし)

 世界樹の事だ。じっとしてはいないだろう。

 とは言え、疲労があるのも確かだ。マリーは年齢的なものもあるが、虎碧の場合は、母から引き離されるのではないかという恐れから。

 貴志は母と子に目をやった。細かなことは聞けないが、離れ離れになっていたのがやっと再会出来たのだ。離れたくはないだろう。その心情は尊重してあげたかったし、言われるまでもなく守ってあげたかった。

「僕でよければ、おそばにいますよ」

 と言う。腰に佩く剣が、ぶるっと震えた、ような気がした。穆蘭が変化へんげした青い珠の七星剣だ。

 嫉妬からか、それともその意気に感じてか。後者だと思いたい。

「まあ、ともあれだな」

 源龍が口を開く。

「海鮮チゲを食いてえが、それどころじゃねえみてえだしな。オレは、寺に行くぜ」

 源龍はもう臨戦態勢だ。

「待った!」

 志明だ。いつの間にか広間に来ていた。

「海鮮チゲが食いたいのだろう。支度をさせているから、待っていてくれ」

 などと言うではないか。一同はその気の利きっぷりに目をぱちくりさせてしまった。香澄ですら。

「やはりそんな反応をするか。オレとて木石ではない。これからも試練があるお前たちを、少しでも労ってやりたいという人情くらいはあるぞ」

「でも」

「時間か。今日一日くらいはいいんじゃないか? まあそれでも、なにがあるかわからんから、酒は出せんが」

 酒は出ないというところが、画龍点睛を欠く感じである。マッコリをはじめとする酒も楽しみにしていたので、残念だ。が、仕方がない、次の機会に賭けよう、と割り切るしかなかった。

「おめえ、いい奴だな!」 

 それでも源龍は素直に喜びを表した。源龍にとっては、基本的に、飯を食わせてくれる者はいい奴だった。

「色々と、お世話になります」

 香澄とリオン、コヒョにマリーと虎碧が、一同を代表するように志明の前に進み出て。深々と頭を下げる。やや遅れて貴志も列に加わり。

「兄さん、お世話になります」

 と、謝意を表した。

「う、うむ」

 香澄の動作ひとつひとつ、動きもしなやかで、可憐さも感じられて。志明はやや照れながら頷き。

「オレは仕事があるから。……楽しみに待っていなさい」

 と、広間を出ていった。

 源龍は打龍鞭を抱えて、続けて広間を出てゆく。腹を空かせるために、庭で運動、打龍鞭を素振りするのだ。

「あたしも」

 羅彩女も軟鞭を持って庭に出て。練習を兼ねての運動で腹を空かせようとする。対して龍玉と虎碧はそのまま腰掛けて。龍玉はごろんと寝転がりざまに、耳と尻尾をさらけ出した。服の腰の部分は破れず、そのまま透き通るのである。なかなか便利な尻尾である。

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