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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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慶群帰還

 雄王らは素早く支度を追え、さっと馬車に乗り込み。車輪の音をさせながら、漢星目指して行ってしまった。

 庁舎仕えの者らは見送ったが、源龍や香澄らはそれを免除された。もっとも、他の者はともかく、源龍と羅彩女は言われても見送りなどしないだろうが。

 雄王は漢星に行くと言うだけで、他に何かを言うことはなかった。志明に対しても、持ち場でしっかりと働けと厳命して、着いてこさせなかった。

 港の瞬志に対しては、遣いの者をやって王が漢星に行ったことを伝えた。

「話の分かる王様だねえ」

 羅彩女はそんな呑気なことを言いながら、茶をすする。もっとゆっくりしたいのが本音だから。源龍は食事を終えると、風呂に行き水で身体を流した。

(この人たちは何者なんだろう)

 庁舎に勤める者らは、不思議で仕方なかった。貴志までもがその中のひとりになっているのだ。

 王様もこの者らには随分と寛大な態度を見せるが。

「風呂でも入るかね?」

 志明が来て、風呂の支度をさせたと言う。

 一同喜び、喜んで風呂に入って。さっぱりしたものだった。もちろん男女別である。

 それと入れ替わりに水浴びを終えた源龍は広間の、元いたところに戻って、地べたに座って壁に背中を預けて、瞑想するように目を閉じ静かにしていた。

 そばには打龍鞭が横たわっている。

「……」

 あの、蓮華の中。咄嗟の思いで蓮華に飛び込めば。

 意識はなかった。気が付けばぽんと外に出されて、鋼鉄の星龍からも出されて、亀甲船に降りた。

 そのことを話す機会は、なぜかない。誰も聞かなかった。源龍も羅彩女も、自分からぺらぺら喋る性分でもなかったから、なおさら蓮華の中のことを話さなかった。

(あ、そうだ)

 貴志は風呂につかりながら、ふと、源龍と羅彩女に蓮華の中のことを聞こうと思いつつ、聞くのを忘れてしまっていたのを思い出した。

 女風呂の方では、蓮華の中のことが話されることはなく。思い思いにあったかい湯につかりながら、他の話題の雑談にふけっていた。

「あー、いい湯だねえ~」

「ほんと、このまま融けてなくなってもいいわあ~」

 などと、羅彩女と龍玉はのんきなことを言う。龍玉は九つの尾を隠さず、湯船が広いのをいいことに九つの尾をさらしながら湯につかっていた。頭からは狐の耳まで出ていた。

「そういえばさあ」

 羅彩女は問う。

「完全に狐にならないの?」

「あー。あたしゃここまでなんだ」

「なんで?」

「九尾の狐と人間の子なんだよ」

「初めて聞いたわ」

 虎碧が驚いて言う。九尾の狐と人間の間に生まれた子など、いるものなのか。いや、実際に九つの尾と耳をさらけ出している龍玉が目の前にいるではないか。

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