遇到公主
それでも警備の兵が少数でもいてもよさそうだが。
「悪鬼が宮殿を騒がし奉り、そのために持ち場を離れさせられたのですな」
公孫真は平然と言うが、警備の衛兵が持ち場を離れるほどとは。もはや国家の一大事、国難ではないか。
薄々と、その国難の二字が起こされ。これからどうなるのかと、胸が騒ぐ。
「この船に乗るのよ!」
劉開華は突然そんなことを言うから、源龍らは驚き劉開華をまじまじと見やるが。子どもも同調して、
「この船に乗ろう」
と言う。
「これも世界樹の……」
羅彩女が言うと、子どもは笑顔で頷く。そもそも、宮殿に飾られた船に乗ってどうしようというのか。
自分たちは危ない状況である。正気の沙汰ではない。
「宮殿から逃げたいんだろう。なら早く乗って!」
突然、船から子どもの声がした。
船べりからひょっこりを顔を出したのは、子どもだった。褐色の肌をし艶のよい黒髪に黒い瞳の子どもだったが、服は辰のものを着ていた。
「さきほどお話しした子とは、あの子の事です」
公孫真が言うと、源龍と貴志、羅彩女は、
「あ、見たことある!」
と言う。
香澄は「久しぶり」と笑顔で手を振る。
「世界樹がそうさせたいなら、そうするしかねえんだろうな」
源龍はもはや四の五の言わず、船にかけられた階段をのぼりながら、
「空でも飛ぶのか」
と皮肉を言えば。船の子ども、自らをリオンと名乗りながら、こう言った。
「そうだよ、空を飛ぶんだよ!」
「はあー!?」
思わず源龍は階段の途中でずっこけてしまった。貴志も羅彩女も、この危ない状況の真っただ中でそんな冗談をと、呆気にとられたが。リオンはかまわず、
「早く早く! 早くしないと鄭拓にみつかっちゃうよ!」
と、せかす。
「ええい、ままよ」
一行は足早に船に乗り、公孫真と劉開華の主従にして師弟のふたりが最後に乗った。
リオンは手を合わせて、なにやらぶつぶつ口ずさむ。
(呪文?)
貴志はいぶかしげにそれを見ていたが、
「飛べえー!」
呪文らしきものを唱え終わった途端に、突然叫んで。そんなことで飛ぶか! と源龍と羅彩女はずっこけてしまったが。突然、ふわりと浮遊感を感じたと思えば。リオンの叫んだとおりに、船は宙に浮かんだではないか。
船は高度を上げて、船べり越しに見る下界はどんどんと遠ざかってゆく。
「こ、これは!」
源龍と貴志、羅彩女はただただ驚くばかり。
劉開華はにこりと微笑み、リオンの肩に手を置き、
「彼の力よ。世界樹はあなたたちを助けよと私たちに言って、彼をつけてくれたわ」
もともとこの船は飾りとして宮殿に置かれていたものだというが。リオンはそれを自らの力でもって、空を飛ばせた。
船はぐんぐんと上へ上へとのぼってゆき、ついには雲が眼前にせまり。その中に入ってゆくではないか。




