慶群帰還
馬車は箱型。小さな小屋のような馬車で、外からは誰が乗っているのか見えない。やんごとなき者らが乗るや、馬車はすぐに慶群の庁舎向かって小走りに進み出す。早馬も駆けてゆく。代官である志明が自ら馬を駆って、早馬の役割を果たすのである。
(なかなか忙しいことだ)
と心でぼやきながら。
庁舎に国王と辰国公主来たることを伝え、支度をさせるのだ。おそらくたいへんな驚きをもってその報せは迎えられるであろう。それから、緊張感をひしひしと感じながらの支度が整えられるのである。
他の者たちは、わりかしゆっくりと亀甲船を下りて、地面を踏む感触をしみじみと感じていた。
「あー、あーあー」
源龍は両手で打龍鞭を掲げながら背伸びをしながら、のんきな声を出す。それからそのまま、ふわあとあくびをし。また背伸びをし。
打龍鞭を肩に担いで、ふう、とくつろぎの息を吐き出した。その様子を、ある者は微笑ましく、ある者は眉をしかめて見守った。
一応、馬車は用意されて、一同が乗り込むのを待ち構えている。
「オレはしばらく港にとどまる」
「わかりました」
瞬志は、突然消えたわけだし。水軍の将軍として、信じてもらえなくてもいきさつを語る必要がある。
貴志は、
「じゃあ、行きましょうか」
と言い、一同が馬車に乗るのを促し。マリーには、自ら手を取って導き乗せる具合である。彼女はもう子供ではなく、年ごろの娘を持つ母親であるから、体力の消耗も大きかった。
「ありがとうございます」
(あら、まあまあ)
マリーと虎碧の母子は畏れ入って礼を言い、貴志は微笑んで、
「いいえ、どういたしまして」
と返し。
龍玉はいろんな意味で微笑ましくその様子を見た。
(あのにーちゃん、虎碧のお袋さんに、ほの字だね!)
娘でなく母親が好きになった貴志に、いい意味での貴公子らしいものを覚え。その恋心を応援したくなった。といっても、それはあくまでも龍玉の推測に過ぎないのだが。
ともあれ、全員が馬車に乗り。庁舎に向かう。
港は立ち入り禁止にされて、厳戒態勢である。しかし港の外に出れば、人々が餌を見つけた雀のごとくに、いろいろ囃して話し合っている。
瞬志の亀甲船が忽然と消えて騒ぎになって、それが帰ってきた。一体何があったのか、人の想像を掻き立てて、それを誰かと話さずにはいられないほど気になるものだった。
密命があっての事か、それともあやかしの仕業か。色々な憶測が飛び交い、そこからさらなる憶測が生まれて、人々の口から口へと語り伝えられた。




