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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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鋼鉄激突


「仏の教えの慈悲は広大でございますが。その慈悲を知らず無明むみょうに陥った者への報いもまた、広大なことでございます」

 太定が雄王に言う。

「無明か」

 無明。読んで字のごとく、暗き心のことを言う。蓮華を武器に星龍を襲う阿修羅は、まさに無明を顕しているではないか。

「力こそすべて!」

「力こそ正義だもんね!」

 などと、人狼と画皮は叫ぶ。それは源龍と羅彩女はもちろん、亀甲船の面々にも聞こえた。

「哀れな」

 雄王はぽそっとつぶやいた。

「私はその力に負けた」

 ぽそりと、劉開華はつぶやいた。それに対し公孫真が、「また機会もありましょう」と言うが。

 劉開華は首を横に振る。誰もそれに対して何も言えなかった。しんはどうなってしまったのか。詳しい話を聞きたいが、今はそれどころではない。

 劉開華は己の無力さをひしひしと感じながらおとなしくしていた。

「なにが力だ!」

 源龍は我が星龍の身を丸め、思い切って鉄丸となって阿修羅に突っ込む。無茶だと羅彩女は思うものの、止められようもなく。間合いを取って流星を放って援護するしかなかった。

 しかし、

「無駄だッ!」

「飛んで火にいる夏の龍ってね!」

 流星はかわされ、迫る源龍の星龍鉄丸は、蓮華によって打ち返されてしまった。

「うおおおー!」

 打ち返された黒い星龍は身を解きほぐしながら放物線を描いて、盛大にしぶきを上げて海に落ちてしまった。

 亀甲船の面々は思わず呻き声を上げて、青銅鏡と通心紙を見入るしかなかった。

 源龍の黒い星龍は、すぐに浮上し飛び上がるかと思われたが。なかなか姿を現さない。衝撃で気絶をしたか、あるいは……。

 不吉な予感がそれぞれの胸に去来する。

「源龍!」

 羅彩女は打たれて飛んで、海に落ちた源龍の黒い星龍を追って海に飛び込んだ。阿修羅は上の両の腕で蓮華を持ち。真ん中と下の腕を組み。

 正面と左右の三つの顔は、無機質ながら怒りに燃えている表情に造られているが、得意げにふんぞり返っているようにも見える。

「はーっはっはっは! ざまあみろ!」

「他愛もないね!」

 人狼と画皮は互いの掌を打ち合っていい音をさせて、これも得意になる。

 この人外のあやかしのいる小部屋も、黒壁に座椅子が二つ、透明な壁ともいうべき窓があり。

 しかし人狼と画皮は、源龍と羅彩女のように水晶は持っておらず。床から長い何かの骨が伸びて。それを握って、鋼鉄の阿修羅を動かしているようだった。

 海に落下した黒い星龍の中で、源龍は気絶をしてしまっていた。やはり衝撃は強く、いかに鍛えられた源龍といえども耐えられなかった。

 帯で身を固定されて、座椅子に腰かけたままで。手は水晶から離れて。目を閉じて気絶をしてしまって。

 星龍はそのまま海に沈んでゆく。

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