鋼鉄激突
風と潮流に運ばれる亀甲船にて、貴志はそう呻くしかなかった。一応天下は手に持っているが……。
「どうだ、驚いたか! 今まで散々なめくさりやがって、今度こそ潰してやる!」
どこに声を拡げるものがあるのか、人狼の怒号が響く。
「お前らの皮なんかいらねえ、踏みつけて捨ててやる!」
画皮の不貞腐れた怒号も響き。六つの拳が固く握りしめられる。
「おもしれえ、やってやろうじゃねえか!」
「あんたらとの腐れ縁もこれで終わりにしてやるさ!」
源龍の黒い鋼鉄の星龍と、羅彩女の赤い鋼鉄の星龍も、鋼鉄の阿修羅に怖じることなく、鋼鉄の牙をさらけて大口を開け、咆哮し。
光り輝く流星を火焔のごとく噴き出した。
だが阿修羅も怖じず、なんと、これも三つの開かれた口が光ったかと思えば、火龍よろしく火焔を噴き出すではないか。
三つの口から噴き出された火焔は正面で合流し、赤と黒の星龍目掛けて迸るが。これに流星が激突し、まるで雷光のように瞬いた。
空を見上げていた船上の人々は思わず眼をそむけた。
「おお」
亀甲船はぐんぐん進む。雄王は唸る。
「王様、ここは源龍と羅彩女さんに任せて。我らは風と潮に運ばれましょう」
貴志はそう進言する。いつの間にか香澄もそのそばにいて頷く。
「……それしかないようだな」
このまま海上にとどまってもできることはない。風や潮の流れに運ばれるままに慶群の港に向かうしかない。上陸すれば何らかの手立ては打てるだろう。
「じゃあ源龍さん、羅彩女さん、任せたよ!」
リオンが通心紙を通じてそう言えば、
「おう! 狗野郎と蚯蚓野郎をとっちめてやるぜ!」
「ここは任せな!」
と、力強い声が返ってきた。
幸い鋼鉄の阿修羅も海の船には関心を示さない。が、しかし。
「お前らはあとでゆっくり料理してやるぜ!」
「王様の皮で王様ごっこもいいかもな!」
などという声が響いた。気が付いていないわけではないのだ。人狼と画皮は、今は源龍と羅彩女に専念しているだけなのだ。
(王様が乗っていることを知っているだと)
亀甲船の面々は身構える。まったく本当に人知を超えた困難が襲い来るものだ。それにあれらは何者か、他の面々は何のことはわからないが。貴志が簡潔に人狼と画皮のことを話す。
にわかには信じられない話だが、今目の前のことを見せられては、信じざるを得なかった。
その間にも亀甲船は遠ざかってゆく。雄王らは祈る思いでこの鋼鉄の激突を見送っていた。
数で言えば二対一で、源龍と羅彩女が有利そうだが。
黒と赤の鋼鉄の星龍は相手を前後あるいは左右から挟み込んで、流星を放った。が、阿修羅もさるもの素早く避ければ。それぞれの流星がこちらに迫り、慌てて避けた。




