突撃流星
という時、足元の感触に異変があった。
浮かんでいる、亀甲船が海に浮かんでいるのである。同時に、北斗七星や北辰、暁の明星は他の星々とともに夜明けの空によって隠されてゆき。陽が昇り出す。
「これは。我々はどこにいるのか」
問答無用で変転を強いられ、危険な思いもさせられて、気が動転せぬはずがない。それでも、各自慌てず落ち着いて、周囲を見渡す。
幸いに波は凪で、亀甲船も揺れは少なく、風に運ばれる。遠くに陸地が見える。
「慶群の港でございます。我々は慶群の沖合にいます」
と言うのは志明と瞬志であった。志明は慶群の代官で、瞬志は近海巡航で慶群の港に泊まっていた。
「慶群とな」
雄王の脳裏に浮かんだのは、光善寺であった。
風は亀甲船を運ぶ。甲羅のてっぺんに立てられる翼虎の旗も心地よくたなびく。
ちらほらと、他の船も見える。その船の人々は、突然現れた亀甲船に驚いて、指差し何やら大声で話していた。
商船や漁船など、様々な船が海に浮かんでいた。その船から視線が一気に集中する。
「王様、御身をお隠しあれ」
瞬志はすぐさま雄王の身を船内に導く。王も「うむ」と、それに素直に従った。何があるかわからぬからというのもあるが、易々と姿を見せぬのもまた、王というものであった。
「おひいさまも」
公孫真に導かれて、劉開華も船内に隠れ。香澄もそれに付き従った。これに太定と志明も続き。
貴志は物見台に残ったまま、物見の役割を担った。龍玉と虎碧も外にいて、万一に備える。
マリーとリオン、コヒョ、聖智も外のままだ。
幸い晴れて、潮風も涼やかで心地よい。
「これが海……」
聖智はぽそっとつぶやく。
「あんた海は初めてなのかい?」
「海岸で眺めたことはあるが、こうして船から見るのは、初めてだ。……海は広いな」
「そうかい。いい経験ができたじゃないか」
いたずらっぽく笑う龍玉につられるように、聖智も少し微笑んだ。虎碧は、雰囲気が柔らかになりつつあって、ほっと安堵する。
王と父と船内に導いた瞬志が外に出てきて、船首の物見台までゆき、貴志とともに海を眺める。
志明は王と父に付き従い船内。
風は亀甲船を運ぶ。港に向かって。
「兄さん、この調子なら港に着きそうです」
風と亀甲船の動きを読み貴志がそう言えば、瞬志も「そうだな」と頷く。
(源龍と羅彩女さんは、どうしてるんだろう)
「そういえば、人が足りないようだが?」
瞬志の問いに、貴志は苦笑し。これまでのいきさつを語った。
「ふざけるな!」
と怒られるかと思ったが、さきほどあらぬ体験をしたばかりである。鬼の騒動もあったことでもあるし。
「あやつも、あやつで戦っているか」
とだけ答えて。あとは押し黙った。
亀甲船はゆるやかに漣に揺られながら、港に向かっていた。
突撃流星 終わり




