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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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突撃流星

 耳をつんざく火龍の叫び声が轟き、空を揺らす。

 さきほどと同じように、流星が鋼鉄の火龍にぶつけられているのだ。

「まずそうだ!」

 突然、そんなあらぬ声が轟き。皆驚いて周囲を見渡す。

「まずそうだ!」

 またも、そんなあらぬ声が轟く。

「鳳凰が」

「天下か……」

 瞬志は耳を疑った。鳳凰が人語を話し、それも、まずそうだ、などと。どういうことなのか。

 雄王と李太定は、この時、劉開華の話が真実であったことを確信した。

「天下は人を食らって肥え太る化け物か」

 もしかしたら自分もそうなるかもしれないし、世子がそうなって、無残な死を遂げてしまった。

「天下は人を食らって肥え太る化け物。あやつも、食われてしまった」

 王の言葉に誰も何も言えず。劉開華は兄のことを思い出し。聖智は静かに佇むしかなかった。

 まずそうだ、というのは、この亀甲船の面々に対してだろう。あらぬ野心を持たず、天下に食われることはなさそうだから。

 しかし、この鳳凰は神出鬼没。時ところ、時空を超越し、どこにでも現れる。

 鋼鉄の火龍といえば、流星がぶつけられて。爆発を起こし。炸裂する光の中で木っ端みじんになってゆく。

 それを尻目に、鳳凰の天下は豪奢な尾羽をはためかせて、どこかへと飛び去ってしまった。

 亀甲船は宇宙に浮かぶ。

「安穏を求める者は少なく。多くは乱を望む。我欲のために……」

 雄王はぽそっとつぶやく。

 人の悲しい性と言えばそれまでだが。王宮という伏魔殿に生まれ、魔に取り込まれぬよう必死に生きたが。

 まさか我が子が、と思うと。いたたまれない思いだった。

「そなたがうらやましい。五人の子は皆、孝に厚く。忠にも厚い。もったいないことだ」

 太定と瞬志、志明、貴志を見つめながら、雄王はささやく。

「そのようなお言葉こそ、もったいのうございます」

 太定親子は慌てて謙遜し、一礼をする。

 香澄は微笑み。マリーとリオン、コヒョも微笑んで互いの目を交わし。龍玉と虎碧もこのやりとりを微笑ましく思い。聖智は少し離れて、静かに佇み。

 劉開華と公孫真も、微笑ましく思う一方で、

(どうして辰には、これがなかったのだろう)

 と、悲しさも禁じ得えなかった。

 兄の狂乱、家臣の反乱、皇帝皇后として君臨していたはずの両親は何もできず捕らえられて牢獄に押し込まれ。自分は公孫真とともに必死の思いで逃げてきた。

 あの、が見える不思議な力も、いつの間にかなくなって。普通の少女になっていた。

(世界樹は私に何をさせたいのかな?)

 そんなことを考えた時、いつの間にかリオンとコヒョがそばにいて、子どもの低い背で見上げて、にっこりと笑った。

 劉開華も思わず微笑み返した。

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