突撃流星
「北斗七星が見えるな」
「北辰も見えまするな」
宇宙に無数の星があり。その星の集まりには、不思議に何かしらの形どった星座というものもあり。その中のひとつ、北斗七星に注目する。
北斗七星の柄杓型の一番先の星、天枢の先に、ひときわ輝く星がある。
北方に位置し、他の星のように動かず、まるで無数の星々の中心のように存在する北辰(ほくたつ = 北極星)。
それがど真ん中に見える。ということは亀甲船はその方角に向かっているということか。
亀甲船はまっすぐに、傾いている様子もない。おかげで助かって入るものの。
辰の国の名は、この北辰に由来する。劉開華はそんなことをふとふと思い出していた。
と思ったら、亀甲船は止まった。
北辰は輝く。
その輝く北辰から、流星が飛び出た。ように見えたが。目を凝らして見れば、それは鳥のように見える、というか鳥であった。
豪奢な尾羽を閃かせ、黄金に輝く翼をはためかせて。
「鳳凰!」
雄王も驚き声を上げた。北辰から鳳凰が羽ばたき出るなど。ただでさえ、只事でない事象の中に置かれているというのに。これから先の予想など考えられ得ず。
何が起こっても取り乱さないようにするのが精一杯であった。
「天下……」
貴志はぽそっとつぶやく。
「天下だと?」
雄王と瞬志はそれを聞き逃さなかった。
そういえば、人食い鳳凰の天下、といった話を劉開華から聞いた(第92部参照)。あれがそうだと言うのか。
振り向けば、劉開華と公孫真も顔を引きつらせている。
鳴き声が響いた。獰猛な猛禽類のような、耳をつんざく声であった。
その声によって呼び出された、というのかどうか、北辰からまた飛び出るものが見えた。
それらは銀に輝き、一見流星のようであったが。よくよく見れば違った。
「鋼鉄の火龍!」
「貴志!」
貴志は思わず「鋼鉄の火龍!」と叫んでしまったところ、背後から我が名を呼ぶ声がする。
香澄だった。休んでいるはずの聖智も一緒にいる。
鋼鉄の火龍の出現によって、一瞬にして緊張感が走った。
「筆の天下を出して、持っているでしょう」
「う、うん」
香澄に促され、貴志は懐から筆の天下を取り出した。そんな香澄は青銅鏡を持っている。
ひょいっとひと飛びすれば、龍頭の物見台に着地した。
その素早く、華麗な動作に、一同目を奪われてしまった。いかに香澄が華奢でも、物見台に四人はさすがに狭い。それに香澄は早く気付き。
「失礼」
と一言、軽く跳躍し。欄干の上にたたずむ。まるで小鳥のように。




