突撃流星
「またこれか!」
貴志は呆れて思わず声を漏らしながら、マリーに寄り添う。虎碧も母に寄り添い、龍玉もそばにいてやる。
聖智も咄嗟に軟鞭を構え、そのそばにコヒョとリオンが寄り添う。
香澄といえば、雄王らのそばに控えて、
「失礼します」
と、青銅鏡を左手に持ち、右手で咄嗟に七星剣を抜いた。
その白い剣身に埋まる、北斗七星の配列の七つの紫の珠。雄王らは思わず、その煌めきに目を奪われる。
「これは」
雄王は驚きはしたものの、あからさまな狼狽はせず、四方を見渡す。太定も同じく。
しかし志明は宙に浮いた様でへたり込んでしまった。それを、
「しっかりなされ」
と公孫真がそばに寄り添い手を差し伸べ、劉開華も憂いを含みつつもその目は鋭く、無手ながら臨戦態勢。緊張感が腑抜けた様をいくらか払ったようだった。
……ところは変わる。
慶群は光善寺。
仏や菩薩らの掘り起こされた石窟にて、灯火もなく真っ暗闇の中、元煥は地に座して合掌し、経を唱えていた。
「ご法主、ここにおられましたか」
側近の僧侶が心配そうに声をかける。元煥は読経を止め、振り向く。
僧侶は手燭をもち、その灯火がほのかにその不安げな面持ちを夜闇から掬い出し。元煥は優しげに微笑んだ。
「わしも、まだまだよ」
「まだまだとは……?」
何がまだまだなのかと問えば、元煥は苦笑する。
「人の世に乱起こるは、御仏も教え給うたこと。子どもの頃から何十年とそれを学んできたにもかかわらず、いざことが起これば狼狽してしまう。散々学んでおきながら、何を今さらと、己を叱りつけたい気分じゃわい」
「それで、ここに?」
深夜、突然起き出し、足音も遠慮なく立てて。厠かと思ったが、行ったきり戻ってこないので。心配になって寺中探して、この石窟にてやっと見つけた次第。
「そうじゃ、逸る心を抑えとうてな。御仏にすがっておるところよ」
現実世界、暁星においては昨年鬼の騒動があり、世子のことは内密にされて急死とされた。それらが人民らに不安をもたらしたのは言うまでもなかった。
しかしそれ以降は何も起こっていない。少なくとも寺の周辺では。そういえばおかしな奴らが寺に紛れ込んでいたが、元煥と親しげだったので大丈夫なのだろうと思っていた。
さて他に何があるのだろうと、僧侶は不思議そうにする。
まさか漢星の空で異常事態があったなど、遠く離れたここでは知る由もない。
ただ、元煥はそれを察することが出来た。
(人の心の難しさよ)
「何か起こるのですか」
「そうじゃな、もう起こっておるじゃろうな」




