遇到公主
「お偉方の偽善、欺瞞にあたしら庶民がどれだけ泣かされてきたか。あんたらにはわからないだろうね」
「まあまあ、落ち着いて」
貴志はなだめるが、源龍と羅彩女は警戒と疑念を解かない。
「そのことも含めて、我らも心を痛めておる次第。ついては、あなた方のお力添えを願いたいと」
「お力添え?」
鎧姿の源龍はいまにも打龍鞭を振るって打ちかかりそうな感じで、ふたりを鋭く見据えている。
子どもと香澄は静かに成り行きを見守っている。
「……、あれ?」
羅彩女は素っ頓狂に間抜けな声を出す。
「鬼どもがいない……」
周囲をきょろきょろする。確かに、羅彩女は鬼を現出させる変な能力(?)があるのだが、ここでは鬼の姿はなかった。
子どもは気付かれないように静かに微笑む。
「あなたは鬼を現出させてしまうのですな。しかしご安心あれ。おひいさまは鬼に強い体質をしておられる。おひいさまの前には鬼はひとたまりもなく退散する」
「そんなことが」
公孫真は娘ほど年下の羅彩女にも礼儀正しい態度で話をし。劉開華は得意げに笑顔を見せる。
「言われてみれば」
源龍と貴志も周囲を見渡すが、鬼がいない。これに一番驚き、そして喜んだのは当の羅彩女だった。
「すごい! 世界樹に連れていかれてから鬼にまとわりつかれてうざかったけど、姫さまのそばなら、うざい思いをしないで済むんだね!」
「あなたは……」
劉開華は子どもに目をやる。子どもは気付かれたかと言いたげないたずらっぽい笑みを浮かべる。
「世界樹でお会いしたな。世界樹の子ども殿よ」
「はあー!?」
香澄を除いて源龍と貴志、羅彩女は素っ頓狂な間抜けな声が出てしまった。
「世界樹のお導きねこれも!」
劉開華は子どものそばに来てその手を取る。
「なんだ、あんたらも世界樹に……」
「左様。あれは霧の濃い日であった。おひいさまと稽古のさなか、気が付けば大樹、世界樹のそばにおってな」
「で、香澄に仕留められて?」
「いや、我らはこの子どもに会って、やることがあると言われただけだ。転生者を助けよと」
「転生者?」
「左様。そこな世界樹の子どもにそう言われ。そこからまた、気が付けばもとの稽古場。おひいさまも夢のようなあれを見たとおっしゃる」
「半信半疑だったけど、夢じゃなかったのね。こうしてまた会えるなんて」
「世界樹が導くと言っておったが。なるほど」
劉開華と公孫真の主従にして師弟はうんうんと子どもを見ながら頷いて納得していた。
「転生者とはあなた方のことでしょう? わたしもだれかは知らなかったけれど……。あの人食い鳳凰には驚かされたわ。でも、それを退治するなんて、すごいじゃない!」




