突撃流星
彼もまた、好漢らしい元気さに欠けてしまって、公主の護衛も満足にできなさそうだ。
この辰のふたりの様子を見て、
(よくここまで逃げてこられたものだなあ)
と、貴志は胸中ため息をつく思いだった。道中はともかく、暁星に着いて緊張感が抜けて、腑抜けになってしまったか。
香澄は愛想よくほほえみ、静かに、しかし素早い動作で劉開華のそばに寄り添った。その手には、青銅鏡。縁は青くなっているのに、鏡面だけは黄金に引けを取らぬほどに光り輝いている。雄王らはそれが気にならぬはずはなかった。
流星は彼女の手に持つ青銅鏡から迸り出ていたように見えた。これは何なのかと、問わねば。
「ごめんなさい、ありがとう」
劉開華は静かに礼を言い。円卓の北側の椅子に腰かけ。その右側に香澄、左側に貴志が腰を掛けた。南側は雄王、その右側に李太定、左側に志明。
「子どもたちは、休ませよう」
雄王はコヒョとリオンを見て優し気に言うが、ふたりは「いいよいいよ」と言ってちゃっかり香澄のそばに佇んだ。
「王様、この子らがいることをお許しください」
「……うむ」
香澄は丁重に言い。雄王もその様子を見て、「まあよいか」と許した。マリーは貴志の隣に座る。龍玉は香澄の隣、またその隣に虎碧が座る。
しかし、南達聖智。彼女は気まずそうに、身を硬くして佇んでいる。雄王はそれを目にし、
「そなたは天頭山教の天君か」
と問う。貴志と劉開華に公孫真はぎくりとする。光燕世子と組んで乱を起こしたのである。死罪である。それを寛大な処置で、実質不問にされているのである。
聖智は跪き。
「はい」
と、消え入るようなか細い声で応えた。
「そなたのことは、元煥から聞いたが。よく改心したな」
雄王の顔は厳しくも慈悲に溢れていた。
聖智は跪いたままで、身も心も硬直する思いだった。
志明は聖智と初めて対面したが、李家の者たちを多数殺した者である、憎しみがないと言えばうそになる。しかし王の御前であるということで、どうにか平静を保っていた。
太定も複雑な気持ちである。
「……幸いにして善き世に生まれ、この手で人を殺めることはなかったが。ご先祖様は剣を振るい戦場を駆け巡った、ということは、人を殺めておる。いかなる大義があろうと、殺めは殺めである。世が世なら、わしも……」
聖智を見据えながら、重い口調で言う。
貴志は思い余って光燕世子に、
「貴方は暴君だ!」
と叫んだことを思い出した。聖智に対してもやはり気持ちは複雑だった。




