遇到公主
「おひいさま、やはりこれは無理があったのでは」
官人がうやうやしい態度で諫めるが、自らを公主と名乗る劉開華はうーんと腕組みして、
「信じてくれないの?」
と少しがっかりしたような顔を見せる。
「信じられるわけないだろ、状況を考えろ」
源龍は言うが、貴志は、
(僕も同じような経験があるな……)
と、あの娼婦とのやり取りを思い出し。
「ここは僕に任せて」
と源龍に言うと前に進み出て、
「改めて。僕は暁星から留学した李貴志。暁星の宰相、李太定の五男です。青藍公主のご高名はうかがっております」
うやうやしく言うと、劉開華はその名の通り花が咲くような笑顔を見せる。
「あなたは信じてくれるの?」
(相手のことを尋ねずに自分のことばかり。押しの強いお方だ)
「はい」
貴志は押しの強い劉開華の態度に苦笑しながらも、様子をうかがい、それが脱出の好機になるかどうかをさぐっていた。
「聞けば青藍公主は武芸に秀で、その技量師匠を越え、出藍の誉れをあらわす藍より青しという言葉にちなみ青藍公主と呼ばれていると聞いています」
使節から話を伺う機会が何度かあり、その中に、武芸に秀でた公主の話を聞いたことがある。竹を割ったような明るい性格であるが、とにかく武芸大好きなお姫様であり。
ことあるごとに武官に手合わせをさせ。使節の武官も手合わせをしたという。
後ろに控える官人は鋭いまなざしを一行に向けている。
(もしかしたら、この人が師匠かもしれない)
「あなたは公主の師匠をつとめられたお方ですか」
「いかにも、武官の公孫真と申す」
官人、公孫真も包拳礼で頭を下げながら名乗る。
(こいつもできるな)
源龍は劉開華と公孫真を見据えて、その技量を測ろうと雰囲気を掴み取ろうとするが。劉開華は無邪気さゆえか、公孫真は落ち着いたたたずまいのためか、真の技量を測りかねる。
この、技量を測りづらいのはなかなか厄介ということだ。
劉開華は木剣を腰帯に差しているが、それ以外に得物はないようだ。公孫真は無手だ。武具がなくとも十分に戦える自信がある、ということか。
「どうしてオレらを助けてくれた? 裏があるんじゃねえだろうな」
貴志を押しのけ源龍がふたりにつめよる。
あの鄭拓のあらぬことで、源龍は王侯貴族に対しすっかり不信感を抱いていた。
「……ごめんなさい。公主として謝るわ」
「鄭拓めの馬鹿が。まことに申し訳ない」
ふたりは跪き、源龍はやや驚いたようだった。しかし、
「それが演技じゃないって保証は?」
と羅彩女までが疑ってかかる。




