幻界入侵
(七星剣)
三人の脳裏に、咄嗟に思い浮かぶのは、香澄の七星剣。
不思議な少女だ。彼女は、何者なのだろう。そして、どうして出会ったのだろうか。
コヒョの力で宙に浮きながら、三人はそのことを考え、考えるうちに無限の空間に意識が没入したようで。足が地に着く感触にはっとして、我に返った。
風は強く吹く。揺られそうになり、足を踏ん張る。コヒョなど小柄で軽いせいか、もう四つん這いだ。
天湖も、まるで海の嵐のように激しい水音と荒波を立てている有様。その飛沫が飛ばされて、顔に当たる。
幸い風向きのせいか、例のあの卵の腐ったような臭いの瘴気はなかった。
「舟が」
舟はたまらず、風と波に揺られて。ついに転覆して、舟底をさらけ出して波にもまれる。
「ああ、饅頭がもったいない」
龍玉は惜し気につぶやく。もう饅頭は水没して駄目になったろう。
「どういうことだ。下りているはずがまた天湖に来て、こんな目に遭うとは」
「私たちにもわかりません。とにかく、こうなんです」
「まったく、意味不明な」
「世界樹が助けを求めているんだ。ほんとにやばいのに襲われて」
コヒョが聖智にすがるように叫んだ。世界樹などいきなり言っても、もちろんわからない。
(何を言っているのかこの子どもは)
と思った時、目の前がぱっと明るくなった。
見よ、風に揺れ荒波を立てる天湖が突然光り出し。その光は周囲を照らし、夜を昼にするかの如く。
「これは」
天湖が光るなど聖智にとっても初めてのことである。
信仰の対象になり、翼虎伝説もある。この天湖にはただならぬものがある、と思っていたが。光るのは初めてのことだ。
湖の中央が盛り上がる。さらには、盛り上がった水面を突き破って飛び出すものがあった。
「あ、あ、あああーーー!!!」
龍玉は魂消て絶叫。聖智と虎碧はあまりのことに口をつぐんで黙り込み。コヒョは四つん這いなのが、手で頭をかばって身を丸める。
光に照らされ銀光を放つ龍が天湖から飛び出し。その勢いのまま夜空高く飛び立ち、さらには口から炎を吐き出し。その熱で夜空はゆらめく。
鋼鉄の火龍であった。
三日月や北斗七星を背に鋭い眼光をこちらに向ける。
「な、なんだ、これは」
口をつぐんでいたのを、かろうじてこじ開け、漏らす声。聖智はただただ魂消るばかり。もちろん龍玉と虎碧、コヒョも。
妖とか化け物などと安易に呼べるものではない。人智を超えた悪魔としか表現のしようのない禍々しさである。
「なにがこのようなものを……」




