幻界入侵
そういったことを経て、しばらくして。昨日、朝起きるとともに胸騒ぎを覚えて。山頂の天湖に向かった。
信徒も付き添うと言うが、自分ひとりで行くと言って断った。もちろん簡単に引き下がってくれなかったが、それをどうにか説得し、もとい得物の軟鞭を振るって、ひとりで行くことを押し通した。
「心配するでない。何事もなければあさってには戻る」
と、山を登った。
天湖から少し下ったところに、新しくこさえた山小屋がある。信徒と力を合わせて造った山小屋だ。
天湖のほとりに佇み、時折小屋で休憩し。何事が起こるのかを待った。
そんな時に、天湖に舟が浮かんで。龍玉と虎碧、コヒョと出会った。
天湖に舟など。と驚いたが、不思議なことに三人には警戒心を抱けず、むしろ安堵して一緒にいられた。自分でも驚いた。
「霧が……」
コヒョがつぶやく。龍玉と虎碧はきょろきょろしつつ。
「嫌な予感がするねえ」
「……うん」
と、警戒し。剣を抜こうとしたが。
「ならん!」
後ろから聖智が声を張り上げ剣を抜かせなかった。そこまでお人好しではない。
言われて内心舌打ちする思いで龍玉は抜きかけてやめて、右手で逆手にもち。虎碧も同じくした。コヒョは虎碧のそばにひっついていた。
いくらなんでも警戒しすぎだと、聖智は苦笑する。
「霧など珍しくない」
「あー……、そうじゃないんだけどねえ」
「では、なんだと言うのだ」
「……。まあ、いいや。言ってもわからないさ」
「棘のある言い方をする」
「だって、そうだもん」
「龍お姉さん」
言い争いになりそうなのを虎碧がたしなめ。龍玉は、はいはいと口をつぐむ。そこから誰もが無言で、重い沈黙の雰囲気と霧の中を下山する。と思っていたのだが……。
「おかしい」
聖智だった。
足の感触が変だ。自分たちは山を下って、斜面を歩いているはずなのに。平になった?
「ほらきた」
やっぱりと龍玉はまゆをしかめた。虎碧はコヒョの手を握りしめた。
「離れちゃだめよ」
「う、うん」
こんな時にと思いつつ、少女に手を握られて、コヒョはどうにもどきどきしてしまっていた。
「足の感触が変だ。私たちは山を下りておるはずなのに」
「止まって!」
虎碧と手をつなぐコヒョは叫んだ。
「天湖?」
霧がやや薄れて、どうにか周囲の景色が見えだすが。立ち止まり、しゃがみ込んで、手を地面につけたつもりが。
触れたのは、水。
聖智が少し駆け、コヒョのとなりでしゃがみ込んで手を地面につけようとするが。同じように、触れたのは、水。
びゅう、と風が吹き。霧を吹き払った。視界が開け、周囲がよく見えるようになった。




