幻界入侵
一年前になるか。光燕世子と組んで反乱を起こし、国を乗っ取ろうとしたが。敢え無く失敗に終わった。光燕世子は死に。自分は、自分のために死んだ者たちを供養するために、出家して尼になろうとした。
慶群の光善寺に赴き、出自を明らかにして、出家の旨を伝えたが。何を思ったのか、法主の元煥は、
「ならぬ」
と横槍を入れ。寺から出し、門前の庵にて聖智に説いた。
天頭山教の教主として、償いをせよ、と。
「そのために、仏の教えを学び、教義に採り入れよ。最低三年はそれで辛抱せい。それでもだめならば、また改めて来るがよい」
反論の余地もなく、まるで野良猫を追い払うかのように追い払われて。すごすごと寺を後にし。
重い気持ちのまま、天頭山のふもとにある社に戻ってくれば。
「ちぇ、天君様ッ!」
社にいた信徒らは涙を流して、教主の称号を叫んで聖智を迎えた。聖智は、嬉しいとか安堵するとかより、ただただ驚かされ。目を丸くした。
「お前たち、私を恨んでいないのか?」
「天君様のことは聞き及んでおりますが、いずれ清らかな心を取り戻されると信じ、天頭山様に祈っておりました」
「こうしてまたお会いできるとは、祈りは叶うのですね」
「我ら一日千秋の思いでお待ちしておりました」
性根の悪い信徒は出てゆき、残ったのは性根の良い信徒たち。数こそ少なくなったが、その分質が良くなったと言える。
社は教団の拠点とはいえ、それほど大きな建物ではない。庄屋の屋敷を小ぢんまりとさせた程度である。
性根の良い信徒らはそこで、交代で、自宅と社とを行き来し、共同生活を営んで社を維持していた。
「また我らをお導きくださいませ」
「やはり天君様でなければ、教団はまとまりませぬ」
信徒らも、色々あって、苦労したのは見てわかった。それでも、岩に爪を立てるような、血の滲む思いで教団や社を守り抜いたのだ。
天君こと南達聖智が帰ってくると信じて。
(なるほど、だから元煥様は……)
元煥の口添えでもあったろうか。追っ手が差し向けられることもなければ、教団が弾圧されることなど、何の沙汰もなく、ほったらかしにされていた。
ともあれ、聖智は教主天君として天頭山教をまとめ、言われた通り仏の教えを採り入れ、教義の熟成に力を入れた。
それはすなわち、人として世に生きる、ということ。この世に生まれ、幸せに生きるためにはどうすればよいか。さらに人生には試練があり、試練を乗り越えるための糧としての教団になるという、存在意義の再確認作業もした。
それから、つつましやかに生き。布教活動もし。壊滅状態だった天頭山教は少しずつでも、教団としての体裁を整え、固めつつたった。




