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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 龍玉は相手の鋭い視線を真っ向から受けながら逆に問う。

「人に名乗らせる前に、自分が名乗りな!」

(そんなことを言って、素直に名乗るわけないじゃない)

 内心期待せず、相手が反発し、名乗らないと思っている虎碧だったが。

「我が名は、南達聖智ナダル・ソンチ!」

 などと、堂々と名乗るではないか。虎碧は呆気に取られつつ、驚きを禁じ得なかった。

 暗がりの中なので、相手の顔貌ははっきりと見えないが。背中まで伸ばされた長い髪はゆらめき、その鋭い視線を放つ目、その強い顔つきながら細面の美人であるように見える。

「おやおや、名乗っていただけるなんてね。名もなき鬼女かと思っていたのに」

「私は鬼女ではない、私こと南達聖智は、この天頭山を神と崇める天頭山教の教主だ!」

「天頭山教……?」 

 龍玉と虎碧にとって初めて聞く教団である。

(この人、悪い人じゃない?)

 目つきこそ鋭いものの、邪気は感じられない。あの悪人特有の、湿り気を帯びた冷たさを、彼女からは感じられなかった。

 コヒョはふたりの後ろに隠れて、様子を見ている。とりあえず彼の出番はない。が、南達聖智の視線が彼に向けられる。思わず固まる。

「その後ろの子どもは? よもや虐待をしているのではないだろうな」

「は、馬鹿をお言いでないよ。なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのさ!」

 龍玉は不思議に思いつつ、虐待を否定する。虎碧は彼女が悪人ではないのを確信した。

「わ、私は虎碧といいます」

「……あたしは龍玉」

「ぼ、僕はコヒョっていいまーす」

 虎碧が名乗ったので、龍玉とコヒョも続いた。

「胸騒ぎがして、明るい頃から来て、待ってみれば。我ながら驚いておるぞ。改めて問う。お前たちは何者だ」

 天湖には舟が浮かんでいる。一体どうやって天湖に舟を浮かべたのだろうか。

「それが、あたしらもよくわかんないんだよ」

「からかうなッ!」

「からかってないよ、本当だよ」

「ほ、本当なんです、何と言えばよいのか。私たちも不思議なんです」

「知らぬうちにここにいたと言うのか?」

「はい……」

 虎碧の素直な返事に、南達聖智は眉をしかめた。龍玉と虎碧はこちらに用心して剣を構えつつも、本当に困った様子を見せたから。

(演技ではない?)

 子どももいる。虐待されている様子はないようだが。性根の悪い大人によって性根を悪くされた子どもなどいくらでもいる。油断はできない。

「あ、そうか!」

 虎碧ははっとして、剣を鞘に納め、右手で逆手に持った。敵意がない意思表示だ。龍玉も、ふん、と鼻を鳴らしてからながら、剣を鞘に納めて、右手で逆手に持った。

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