遇到公主
しばらくして、ある扉を見つけると鍵を出し、それで扉を開け、部屋の中に駆け込んだ。
源龍らも続いてなだれ込み。全員入ったのを確認して、男が扉を閉めて、女が鍵穴に鍵を指して、かちりと音がして鍵がかかって。男は扉が開かぬのを確認して。とりあえず、ほっと一息ついた。
中は真っ暗だったが、男は手際よく火打石で燭台に火を灯し。それから中がほのかながら見える。中は何もないがらんどうの空き部屋だったが。
女が部屋の真ん中でかがんで手を床についている。なんだと思えば、その手によって床の扉が開かれた。
「この中に入るのよ」
女は愛嬌のある笑顔で言うと、まず自分が先に足を入れ、手招きする。
源龍は警戒し、淡々としていた香澄の目も少し鋭くなったが。今は迷うことはできない。人数はこちらが多い。いざとなればふたりを懲らしめてまた逃げなおすのみで。
ままよ、と手招きされるままに床の穴に向かった。
男女は先にもぐり、そこに子どもが先にもぐりこみ、以下羅彩女、貴志、香澄、源龍と続いた。
穴からは梯子がおりていて、その梯子を伝って下に降りた。
しんがりの源龍が扉を閉めて穴をふさぐ。
床下にまた廊下があり、天井までは源龍の頭ひとつ分の高さ。壁にかけられた燭台が火を灯して、暗くはない。
若い女官と初老の官人らしき男女は一行を眺めて、好意ある笑顔を見せる。
ここは安全なようで、とりあえずほっと一息つきたいところだが。この男女は何者なのか。
「危ないところを助けていただいて、かたじけない。僕は李貴志。あなた方のご尊名を教えていただけませんか?」
包拳礼で頭を下げて貴志がふたりに礼を言いながら名を尋ねる。
若い女官はにこりと微笑んで貴志を眺め、それから一行を眺めて。
「疑わないと約束してくれる?」
などと言う。
「助けていただいた恩人をどうして疑いましょう」
貴志は包拳礼の仕草のまま言う。後ろで源龍は、
(なにをもったいぶりやがる。感じ悪い)
と内心舌を出していた。
羅彩女も警戒する。香澄と子どもは成り行き見守る。
「ここは私が」
「いいえ、私が自分で名乗るわ」
そんなやりとりがあり、一行はぽかんとするが。やむなさそうに官人が下がり、女官はえへんとなんだか偉そうに咳ばらいをする。
「私は辰帝国皇帝・康宗と靖皇后の娘、青藍公主。姓諱は劉開華よ!」
女官は堂々と名乗りを上げたが、一行はぽかんとしている。
それもそうだ。服も普通の女官服であるし、それが突然現れ、私は公主(姫)よ、と言ったところでどうしてにわかに信じられようか。




