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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 振り返れば、反対隣りのリオンも、壁が透けて見えるように。

 通心紙から宇宙が、自分たちのいるところまで広がったとでも言おうか。かと言って、紙面に映るものは変わらない。

 どうも源龍と羅彩女とは別の宇宙のようだ?

「あれー」

「こ、これは」

 リオンとマリーは寝間着姿で通心紙を手にしたまま、辺りを見回しおおいに戸惑う。

 ふと、七星剣を抜けば。剣身に埋め込まれた紫の珠は自ら光を放つほどに光り輝いている。


 所は変わる。

 第二の世界樹の池から舟で、霧に包まれて大海に出た龍玉と虎碧とかつての刑天ことコヒョは。

 ぷかぷか浮かぶ舟に揺られながら、夜空を見上げていた。

「そろそろ何か出そうなんだけどなあ~」

 コヒョは舟の床に寝転がり、夜空を見上げながらのんきにつぶやく。

 姿勢正しく座る虎碧は、瞑想するように静かにしている。対する龍玉は、九つの尻尾をさらけ出し。それを座布団にするかのように布いて、小屋の中で大の字になって、のんきに寝ていた。

 それぞれのそばには、赤虎剣に青龍剣。鞘に収まり、持ち主のそばで静かに寝ているように横たわっている。

 大海に出てから、他の舟に遭遇することもなく、陸地も見えることなく。時々太陽と雲を背に空を遊泳する鳥が見えるだけの、なんとも退屈な時間を強いられているのだった。

 最初こそ緊張したものの、何も起きない上に水も食べ物も雨露をしのぐ小屋もあり、何も起きない時間が長く続けば。緊張がゆるみ、退屈さを感じるのも仕方がない事であった。

 そうするうちに、夜の帳が落ちて、星々と三日月煌めく夜空が浮かぶ。

「あーあ」

 コヒョは起き上がって、船縁沿いに立って、周囲を見渡した。

「なーんにもないね」

 と言おうとした時、何かが見えて口を開くのを一旦やめ。それから改めて、

「あー!」

 と、あらぬ声を出した。

「陸地だ!」

 その声に反応し、虎碧は眼を見開きコヒョのそばにゆき。龍玉も青龍剣を押っ取って外に出る。

 三日月とは言え月光と、星々の煌めきのおかげか、海の向こうにうっすらと陸地が見える。

 びゅう、と風が吹き。船が揺れ。水が弾けてコヒョの唇に飛んだ。

「わっ。もう」

 突然唇に飛んできた海水を舌で舐め取ったが。それから一瞬、身がかたくなる。

「この水、しょっぱくない!」

 海水はしょっぱいはずだ。それなのに、しょっぱくない。淡水の味だ。手を水につけ、指先を舐めてみた。

 やっぱり、しょっぱくない。淡水だ。

「何言ってんの?」

 龍玉がそんな馬鹿なと思って同じように指先を水面につけて、舌で舐めてみれば。一瞬身が固まった。

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