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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

「これって」

「世界樹の鏡……」

 リオンとマリーは通心紙を眺め、青銅鏡を見て、その名をぽそっとつぶやいた。

「本当に世界樹のそばでも異変が起こっているのね」

 香澄が世界樹の鏡を見て、確信を込めて言う。

「普段は世界樹のうろ(虚)の中に隠されているのに、ちょっと、やばいよこれ」

「鏡の光はなにものをもってしても遮ることは出来ないものね」

「砕いても砕いても、またももとに戻る不思議な鏡だけど……」

 リオンとマリーが交互に声を発する。香澄はじっと紙面を見ている。

「この鏡を通じて他の異世界にも行けるんだけど……。何かが異世界間を行き来しようとしたのかな?」

「何が?」

 リオンの声に、香澄が問う。

「考えたくないけど、あの、鳳凰の天下が……」

「天下……。そうね、もう食べられるものならなんでも食べるところまでいっているのかも」

 鳳凰の天下は、人を食らう人食い鳳凰である。特にあらぬ心を持った人をこのんだ。

 天下というのは勝手に名付けた名であるが、歴史を顧みれば、天下という言葉のもとでどれだけの人命が失われたのか。

 天下とは、人を食らって肥え太る化け物であると比喩できるが。その比喩そのままの存在であった。

「……ねえ、鳳凰に食べられちゃったら、どうなるのかしら?」

 マリーは、ふとそんなことを思いつき、言ってみれば。リオンはおろか、香澄ですら一瞬凍り付いてしまった。

 リオンと香澄も万能ではなく、わからないことはたくさんある。鳳凰に食われた者はどうなるのか。

 かつて、源龍と貴志が鳳凰に食われながらもそのまま異世界に飛ばされながらも、戻ってきたが。なぜそうなったのかは、誰にも分らなず。

 そして、もっと気になるのは……。

「どうして、鳳凰の天下は、生まれたのかしら?」

 香澄はぽそっとつぶやいた。リオンもマリーも答えられない。

 鳳凰の天下が生まれた理由はわからない。ただ、人智を超えた何か、としか言えなかった。

 その人智を超えた何かは、たいていは世界樹のことなのだが。その真意までは、わからない。

 ともあれ、三人紙面を凝視し、様子を見れば。

 宇宙を漂う世界樹の鏡の光は、小宇宙とも言うべき星雲に向けて伸びて。源龍と羅彩女が得物を構えて警戒していた。

「……」

 香澄は、ふと、天井を見上げた。

 燭台に火を灯していないので、まっくらな部屋で何も見えない。はずなのに、星空が見える。壁も、点々と煌めく星空が浮かんでくる。それに伴い、隣の部屋のマリーの姿も見えるようになってきた。

 咄嗟に、香澄は寝間着から紫の普段着のチマチョゴリに着替え、七星剣を手にする。

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