幻界入侵
「うわあー」
宙に放り出されて、落下し。思わず悲鳴を上げる羅彩女だったが。突然身体が抱えられた感触におそわれる。
何事かと思えば、かつて虎炎石だった子どもが、なんと高く跳躍して、落下する羅彩女を小さな身体で抱えているではないか。
子どものものと思えぬ力で虎炎石だった子どもは羅彩女を抱えて、しっかり足を踏ん張って着地して、降ろす。
「あ、ありがとうよ、ぼうや」
安堵のあまり、思わず相手の頭を撫でてやった。なんだかむっつりした顔をしている。それが、虎炎石だった子どもは、めそめそと泣き出しながら世界樹のそばまで駆け戻っていった。
「なんなのあの子……」
少しきょとんとしつつも、それどころじゃないと気を取り戻し。
源龍は青銅鏡を持って逃げ、雲の皇帝はどすどす足音をさせて追い。それをさらに軟鞭を振り回して羅彩女が追った。
子どもたちは世界樹の木陰に寄り添い。戻る虎炎石だった子どもを迎え入れ。この戦いを心配そうに眺めている。
「しかしよう、得物も効かねえバケモンをどうしろってんだ!」
源龍は叫んだ。このまま逃げ続けられるわけがない。得物も効かない。打つ手なしではないか。
空は相変わらず分厚い雲が覆って。ほの暗い。
「おい、この鏡でなんとかならねえのか!」
おそらく普通のやり方では勝てないであろと踏んで、普通でない、鏡を使ったやり方があるのではと叫んで問うが。
「わからない。僕らも困ってるんだ!」
帰ってきたのは、源龍にとってつれないものだった。
「なんだよそりゃあ!」
いっそこの青銅鏡を叩き割ってやろうか、などと頭に浮かんだが。かろうじて抑えた。
が、途端に頭の中で、きーん、と変な感触がしたかと思えば。
「鏡を割りなさい」
などと、聞こえるではないか。源龍は駆けながら己を疑った。恐慌をきたして頭がおかしくなってしまったのか。
「源龍、あたしによこしな!」
羅彩女が手を伸ばして鏡を求める。ふたりで投げ受けしながら逃げようというのだ。
「声が聞こえた!」
「え、なんだって?」
「声が聞こえたんだ!」
「何を言ってるんだい!」
羅彩女は源龍の言葉に耳を疑った。こんな時に何を言ってるんだと。
源龍は駆けながら世界樹を見据えた。
「おい、ほんとにいいんだな。やるぞ!」
源龍は世界樹向けて青銅鏡を掲げると、咄嗟に地面に叩き落し。打龍鞭を振り下ろして、青銅鏡を叩き割った。
破片が飛び散る。
「な、何やってんのよ!」
羅彩女は思わず悲鳴を上げた。子どもたちは、一斉に世界樹を見上げた。その間に飛び散った破片がばらばらと落ちる。




