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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 雄王と安陽女王としては、親として、ただただ忸怩たる思いであった。

(しかし奇妙なこともあるものじゃ)

 時を同じくして、辰の皇太子も若くして死んだのである。

 公主の劉開華は供の公孫真とともに暁星にひょっこりとやってきていた。

 色々あったのがどうにか治まり、公主も辰に帰った。しかし、これは終わりではなかった。新たな展開の始まりだったのだ。

「しかしあの鬼どもが、また現れるかもしれぬのだな」

「そうかもしれません……」

 これは貴志にしか応えられない質問であった。

「今はいない者たちも、今ごろは異世界で戦っているかもしれません」

「こことは別の異世界、幻界か。まこと摩訶不思議なことじゃ」

 息子の言葉に、父は眉間にしわを寄せながら酒の入った杯を一気に飲み干した。王と同様に、太定もよい飲みっぷりである。

 志明もまあまあいける口であるが。対する貴志は下戸で、杯の端っこをなめる程度に酒をすすった。

 香澄とリオンとマリーである。リオンとマリーも、食事に舌鼓を打ち満喫していた。しかし酒はあまり口に着けないし、リオンは子どもなので別に果汁の飲み物を用意してもらっている。

(碧児は頑張っているかしら?)

 娘の虎碧のことが思い出されるが、九尾の狐の龍玉も一緒ならば乗り越えられるだろうと、自分に言い聞かせる。

 香澄は杯を手にし、くいっといい飲みっぷりを見せ。他の料理に箸を運ぶも。淡々とした仕草で、瞑想をしながら食事をしているようだった。

(この少女も不思議な)

 ここにいるのに、いないようにも感じられる。目をそらせばすぐに忘れてしまいそうな、儚さを感じる。

 しかし、七星剣。ひとたび抜き放たれれば、閃光を放ち、斬れぬものはないというほどの切れ味を見せつけるのであろう。

 辰の異変もある。

 話題はもっぱら今後の事にしぼられた。国の警備の強化は言うまでもないが。

「しかし変ですな」

 太定は眉をひそめる。

「国に異変あれば、流民も生じ我が国に陸路海路を経てやって来ると思うのですが。王様、そのような報せは?」

「ない」

 太定が受けぬ報せは、言うまでもなく雄王も受けてはいない。

 臣下の怠慢によるものか、それとも本当に流民がないのか。

 辰と暁星の間には多大な人的、物的、文化的な交流がある。国境くにざかいの警備はもちろん普段から厳格にし。たとえ辰の要人であろうと、怪しければ決して入国を許すなと厳命し。

 幸いそれは守られている。

「しかし公主がこうして逃れてきた。鄭拓はいかにして謀反をなし得たのか。志明、わかるか?」

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