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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 太定と志明も、思い思いに箸を伸ばし、食事を口に運ぶ。

 楪には、海の幸や山の幸が、それぞれ乗せられている。一番大きな器は底も深く、汁もたっぷりのチゲであった。その中には、豆腐や山菜、豚肉などが入れられていた。汁は豚肉の出汁で、ほどよく塩辛い味付けがなされている。

 山菜や豆腐も出汁が利いて、口の中に入れれば暖かさと味付けが交わり身にも心にも染み入るようである。

 白米、ナムルにキムチ、刺身など。豊富な種類の料理に、一同は舌鼓を打った。

「ふむ……」

 雄王は食事をしながら言う。

「我が国に異変はないようだな」

「そのようでございます」

 太定が相槌を打ち、志明もそれに続いて「はい」と応えながら弟を肘で小突き。

「左様にございますね」

 と慌てて、貴志も応える。

 今、食している豊富な料理。その豊富な食材は、暁星の各地から送られてきたものだ。

 本当なら志明は代官として慶群キョングンにいて、都に運ぶ名産品を預かり、管理し、配送の出発を見届けなければならないのだ。

 もしこの中のどれかが、厨房の不手際ではない理由で不足していたり不出来であった場合、配送元に異変ありというしるしにもなる。

 天候不順による凶作、あるいは各地の地主が乱心を起こしたのか……。

 こうした食事からも、各地の様子がうかがい知れるようにするのも、国を統べるための工夫のひとつであった。

(食事くらい、難しいことを気にせず、気楽にいただきたいなあ)

 などと貴志は考えるのであった。

「ただし、今のところはでございます。辰に異変あれば、ここに並ぶ食材も異変がありましょう」

「ありうることだ。備えねば」

 言いながら酒の満たされた杯をぐいと飲み干す。王らしい、よい飲みっぷりである。

 一国を統べるだけあり、身も心も、そして胃袋も胆力が備わっているのがありありとうかがえた。

(王様おわす限り、暁星も安泰じゃ)

 志明は名君の時代に生まれた幸運を、天に感謝する。しかし太定と貴志は、

(王様は名君におわすが。お世継ぎは……)

 正室の安陽女王との間には、光燕世子クァンヨンセジャの一子しか授かれず。しかもその性格は乱暴なうえに、あろうことかあらぬ者たちと組んで反乱を起こし、返り討ちに遭い、死んだ。

 その時、が躍り出て都を乱し、多くの人々も死んだ。が、伝説の翼虎イグホが出現し、乱を治めた。

 貴志も仲間たちと必死に戦った。

 ともあれ、世子セジャの反乱や妖魔の乱というあらぬ事態ではあったが。事の仔細をどうにか隠して。

 乱とは別に世子は病死したということにして、ささやかな国葬をして弔った。

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