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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 だが雄王と安陽女王は、首を横に振った。

「何を遠慮することがあろう。あの時、我が国をの群れから助けてくれた功労者ではないか」

「そうですよ。まだまだ聴きたい話もありますし」

「そうだ。七星剣のこと、よく見てみたいしな」

 話に七星剣のことも語ったが、雄王はそれに強く興味を抱いたようだ。

「かまわぬかな?」

「はい、それはかまいませぬが。私は江湖をさすらう下賎の者なれば」

「同じ人間ではないですか」

 辞退しようとする香澄らに、安陽女王はそう言った。

「もったいないお言葉でございます」

 そこまで言われてはと、香澄らは食事を共にすることにし。そうなれば貴志も断り切れず、同席することになった。

 一同椅子に着いたところで、衛兵に命じ、預けていたふた振りの七星剣をもってこさせた。

 貴志は碗を手に取り、茶で喉を潤した。緊張をほぐすために。さすがに王も女王も父も兄も、何度か茶を口に運ぶようになっていた。木石ではない、人として喉も乾くのであるやはり。

 衛兵はふたりで、ひとりがひと振り持ち。雄王は立ち上がって、まず香澄の七星剣を受け取り。こしらえを眺める。

 一見して何の変哲もない、汎用の剣のようだが。

 しゃ、と素早い所作で抜剣の仕草を見せた。

(なかなかの腕前……)

 香澄は雄王がそれなりに武芸も身に着けているのを咄嗟に見抜いた。文武の道を治めるのも、王の役割なれば。

「なかなかの業物だな。剣身に埋まる紫の七つの珠も、美しい……」

 これは何の石なのかと問うが、

「わかりません」

 と、香澄は静かに応えるのみ。

「わからぬか」

「育ての親より授かりしものなれど、細かなことは教えてもらえず」

「ふむ……」

 雄王は七星剣と香澄を交互に見やって、鞘に納めて。衛兵に預け。次に貴志の青い珠の七星剣を手にする。

 これも何の変哲もなさそうな、汎用剣のようだが。鞘から抜いてみれば。

 異様に輝く剣身に、青い珠。

(怒ってる?)

 貴志はなぜかそんなことを思った。穆蘭が、他の男性に触れられて怒っているかのように、剣身も珠もきらめいている。

「……」

 雄王はしばし青い珠の七星剣を眺めたら、これも鞘に納めて。衛兵に預ける。

「返してやれ」

 言われて衛兵は耳を疑った。いかなる者であろうと、王のおそばでは帯剣せぬのがさだめ。それを、王自ら破るのか。

「貴志は言うに及ばず。この香澄なる少女も、心配に及ばぬ。剣をもたせてやれ」

 言われて衛兵はきょとんとしている。衛兵は帯剣している。それは厳しい科挙の試験や訓練を経ての上の事であるし、もし過失があれば本人に厳罰が下されるのは言うに及ばず、一族郎党にも罪が及ぶ。

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