幻界入侵
とつとつと語る劉開華の顔には、彼女のよい特徴である闊達さはなかった。ただただ重かった。
いきさつを語るうち、声も小さくなり消え入りそうだった。
貴志にはそれがなによりも辛かった。彼女は公主で、次期女帝候補者とはいえ、その内面は、暁流と呼ばれる暁星の歌舞団などの文化・芸能に憧れるひとりの少女だからだ。
時折、安堵を求めてか、貴志と香澄、リオンの顔を密かに見つめたりする。そのたびに、微笑みを返すのだが。微笑みをもってしても、彼女の顔は軽くなることはなかった。
しかし、恐ろしいことはともかく、不思議なこととは。
「鄭拓が私兵を率いて皇宮を包囲するとともに、空から鋼鉄の龍が突如現れ、火まで吐いたのです」
「鋼鉄の火龍……」
公主は何を言っているのかと、雄王に安陽女王、太定に志明は眉をひそめる。謀反で国を追われた衝撃から、心まで病んでしまったかと思わざるを得なかった。
しかし、貴志と香澄、リオンとマリーは疑わなかった。
「ともあれ、よくぞご無事であらせられた。部屋を用意いたすゆえ、ごゆるりと休まれよ」
雄王は劉開華と公孫真の様子を見て、これ以上話を聞き出すことはやめ。休んでもらうことにした。
「たれかあるッ!」
そう声を張り上げれば、衛兵と官女が来て、雄王の指示を受け。劉開華と公孫真を案内する。
「お世話になります」
劉開華はお辞儀をし、公孫真も深く頭を垂れ。部屋に案内される。諸葛湘も付き添って着いてゆく。
それからまた衛兵を呼び、辰に異変あり、国の警護を厳重にすることを各部署に伝えるよう指示を出す。衛兵は驚きつつも、
「かしこまりました」
と、部屋を飛び出す。
「これから忙しくなるぞ」
雄王は顔を引き締め言い。安陽女王と太定は頷く。
という時、ぐー、と腹の音が鳴る。リオンだった。恥ずかしそうに照れ笑いで誤魔化す。
「そうじゃったのう、今まで何も食わずにおれば腹も減るであろう。食事にいたすか」
太定は優しげに微笑んで、王と女王に、食事にいたしましょうと進言すれば。
「うむ、食事にしよう」
と、官女に命じて支度をさせる。この部屋で、この面々と、である。
「そこまで王様とご一緒させてもらうなど、あまりにもこの身にふさわしくありません。どうか、辞退させてください」
貴志は深くお辞儀をして辞退を申し出る。貴志はまだ官職にないとはいえ、宰相の子にして、王族でもある。雄王と安陽女王と食事を共にしても、なんら問題はないのだが。
「私も、同じく。どこの馬の骨ともわからぬ者がここまで同席させていただくなど……」
「私も、身に余ることです」
「僕も……」
香澄とマリーとリオンも辞退を申し出る。




