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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻界入侵

 本来ならここにはいないはずの人物である。しかし劉開華も公孫真も、確かにここにいるのである。

 それにしても、顔を見知っているからいいようなものの、顔を知らなければ怪しい者と警戒をしただろう。劉開華と公孫真は、平民の服を身にまとっているのである。しかも、髪も乱れ気味で顔もすすけているように汚れている。

 高貴の身の上とはとても思えぬ身なりである。一体何があったのか。

 暁星の王宮に仕える官人、特に王と女王の身近に使える者も、見知ってはいたが、その身なりには、やはり驚かざるを得ないし。大使の諸葛湘が付いているとはいえ、にわかに王宮に入れるのも憚られる。

 それでも、強引に入ってきたようである。衛兵も官女も険しい顔をしている。

 そんな衛兵と官女らは雄王の姿を見て、慌てて跪く。

 青藍公主こと劉開華に、公孫真、諸葛湘は一同を目にし。特に貴志と香澄、リオンをに微笑みを向ける。

 しかし、マリーのことは知らないので、「誰?」と戸惑いの表情を見せた。

「これは、公主。お久しぶりにございます」

 雄王と安陽女王、そして太定らは一礼をし。王自ら自室に招き入れる。

 その様子から、ただならぬものを皆察して。話を聞かねばと思ったのだ。

 衛兵と官女は戸惑いつつも、黙って王のなすがままにする。

 劉開華は表情を引き締め、失礼しますと部屋に入ってゆく。公孫真と諸葛湘も続く。

 で、部屋に入れば、茶瓶に茶碗が置かれた円卓、並べられた椅子。ここでこの面々らと面談をしていたのはすぐにわかった。

 何の話をしていたのか気になりつつ。王に促されて椅子に座り。その後ろに公孫真と諸葛湘がたたずむ。

 人が増えれば椅子が足りなくなる。官女は気を利かせて、追加の椅子を持ってくると同時に、追加の碗も持ってくる。

 一国の皇族が突然来たのである。平民の服を身にまとい。供もひとりだけ。ただ事ではない。

 さっきよりも重く、深い緊張が周囲を飲み込んで一同の肩にのしかかる。

「公主、何事がおありか。お話いただけませぬか」

「はい……」

 劉開華は重い口をたどたどしくも開き、締め付けられる思いをしながらも、言葉を絞り出した。

「辰の宰相であった鄭拓ていたくがついに謀反を起こしました……」

(ついに!)

 貴志は胸に鉛玉を落とされる思いだった。

 鄭拓がついに謀反を起こして、皇宮を乗っ取ったというのである。劉開華と公孫真も、抵抗もままならず、こうして平民に化けて逃げざるを得なかった、と。

「不思議なこと、恐ろしいことが同時に起こり。私たちはなす術もありませんでした……」

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