幻界入侵
空は曇天。分厚い雲が太陽の光を遮り。昼前であるはずなのだが、ほの暗く。そのせいか、気持ちも落ち込み気味で。無理矢理でもひと働きしても、どうにも食欲が湧かなかった。
そんな、やけに重い雰囲気が垂れ込める日である。
やがて一団は王宮に辿り着き。謁見の間、ではない、この暁星の国を統べる王の私室に招かれ。扉も固く閉ざされて、王からの信用厚い衛兵が守りを固める。
この国を統べる王、雄王。女王の安陽女王。宰相の李太定に、その子、李志明に、李貴志。
貴志の連れ合いである褐色の肌の子どものリオンに、金髪碧眼の大人の女性のマリー。
そして、静かに佇む少女、香澄。
それらが円卓を囲んで座し。窓の外の曇天に合わせるような、曇った表情をして、沈黙の重さを肩に背負っているようであった。
官女の最高位、提調尚宮がひとりひとりの前に、うやうやしく茶の入った碗を置く。
円卓の中心には茶瓶が置かれている。碗の茶を飲み干したら、これで補充するのだが。それは官女の役割のはずだ。
「予が呼ばぬかぎり、ここに来てはならぬ」
「かしこまりました」
提調尚宮は、うやうやしく一礼をして退出する。そう、余人を交えずこの面々のみでの面談である。茶の補充すら自ら行う徹底ぶりだ。
「余談は挟まぬ。貴志よ、今までの事を正直に申せ」
雄王と安陽女王は鋭い目で貴志を見据え、発言を促す。
「はい。あー……」
「なんだ、その、あー、は」
志明は自らの恥であるかのごとく赤面して説教をする。言われて貴志も、はっとして、口元を引き締めなおし、まずひとつ咳払いをし。
「えー、と……」
と、どうにも詰まったような仕草を見せてしまう。
リオンとマリーは、笑ってはいけないと思いながら、笑いを堪えて歯を食いしばる。が、雄王と安陽女王、父の太定は硬い表情のまま、貴志の言葉を待つのみ。
香澄は瞑想をするように静かに椅子に座すのみ。
志明も、もう何も言わぬと自分に言い聞かせて貴志の言葉を待つ。
重い沈黙が垂れ込め、それぞれの肩にのしかかる。
貴志は、緊張していた。
王と女王の御前である。しかも、余人を交えず、である。これがいかに重大なことか。と、思いつつも。
えー。あのう。そのう。そうですねえ。
などなど、余分な言葉をついつい挟み挟みしながら、今までの事を、たどたどしくもどうにか口に出しているといった具合で。
志明は舌打ちしたくなるのをかろうじてこらえつつ。
(本気か、こいつは)
弟の言うことが、にわかに信じられるわけもなく。狂ったのか、それも王と女王の御前でと、冷や冷やする思いでもあった。




