幻在相交
こうしている間に鳳凰は三人に気付かず、そのまま飛び去り。もう見えなくなってしまった。
「でもねじゃないよ。さっき舟に乗るときは、そんな素振り見せなかったのに」
たばかられた気分になり、龍玉はご機嫌斜めだ。いつどんな敵にでくわすかわからない中だから、なおさらだ。
虎碧はまあまあとなだめるが、利きそうもない。
九つの尾がゆらゆら揺れるが、それは炎のゆらめきに見えないこともなかった。
すると、ふわりと、龍玉と虎碧は、浮つくというか、不思議な浮遊感を覚えた。
「あら?」
「あれ!?」
なんと、足か舟の床から浮いて本当に我が身が浮遊するのである。コヒョは得意な顔になる。
「他にこういうこともできるんだ」
そうしている間に、金色の羽毛も降らなくなって。霧散するように消えていた。
「あんた、そんなことが出来るの!?」
「うん、まあ」
今度ははにかむようにコヒョは微笑む。すると、彼の肩から上が、何かゆらめくものが見える。虎碧は不思議に思い、碧い目をこらせば。その揺らめきの中に、首のない、その代わりに胸に目、腹に口があり、斧を持つ怪物。刑天が浮かんで見えた。
「え、刑天?」
思わず漏らせば、コヒョはうんと頷く。
「僕は、もとは刑天なんだ。その前に人間だったけど……。色々あってね」(第20部分参照)
「色々って」
龍玉にも刑天が見えた。と思ったら、見えなくなった。
「うん、まあ、色々と。悪さをして、世界樹に怒られて、泣きめその子どもにされたけど。最近許されて、おふたりを助ける役目を仰せつかったんだ」
「助けるって、どうやって?」
「戦うことはできない、って言ってたじゃんよ」
どうにも要領を得ないコヒョの様子がおかしく。龍玉と虎碧はぽかんとしながら、疑問を抱かざるを得ない。
「うん、まあ、そうだねえ……」
コヒョも苦笑する。
海原は波も穏やか。舟も揺れず、のんびり浮かんでいる。
ぐー。
と、龍玉の腹から音が鳴る。
「まあ、いいや。ひとまず休んで、食いもんつまもう」
三人はなんだか気まずそうな雰囲気の中、龍玉の意見に賛成し、小屋に入って備蓄の食料をつまむのであった。
ところは変わる。
暁星の都である漢星の、宰相・李太定の邸宅はにわかに慌ただしくなり。
王宮に向け早馬が飛び出し。それからややあって、馬車がやや早足で門をくぐって路地に出る。
馬車は五台連なり。その前後を警護の兵が護衛するものものしさ。
人々は何事かと、うわさ話するが。それも聞こえぬとばかり、この一団はまっしぐらに王宮を目指した。
幻在相交 終わり




