幻在相交
舟は進む。風もないのに、流れもないのに。見えない力に導かれて、霧の中、池の水面を進む。
舳先はさざ波を立てて、水面は揺れる。
やがて草原や子どもたち、水虎も見えなくなって。霧の白しか見えなくなって。それでも視界の先に不思議と大海原が見える。
その霧も、徐々に薄くなって、陽光が周囲を照らし出し。ついには、一艘の舟が大海原に漂う様が見て取れた。
「一体、何がこんなことを」
虎碧はぽそりとつぶやく。龍玉は減らず口を叩かず、周囲を見回し。コヒョも同じようにする。
雲は青空を泳ぎ、太陽は燦々と輝き。大海原も青々と、凪の小さな波を立てながら陽光を反射しきらめく。
一見すれば、平和そうだが。
「ん?」
三人は同時に空を見上げた、空で何かがきらめいたかと思えば、それは羽毛だった。金色に輝く羽毛が、雪のように、晴れた空から降ってくる。
「これって、あの鳳凰の羽毛?」
金色の羽毛は三人もとまで、舟の床までに降りて。あるいは海に浮かぶ。
虎碧は羽毛のひとつをつまんで、碧い目でまじまじと見つめて。龍玉は、まさかと思って跳躍をし、羽毛に乗れば。足は踏ん張れて、さらに上の羽毛に乗れて。そこから飛び降り、舟に着地した。
コヒョはぽかんとしっぱなしだ。
「鳳凰……」
ぽかんとしながらも、声を漏らす。そう、空に鳳凰が羽ばたいている。
鳳凰は、先に光善寺で見かけたが。ということは、ここは暁星の海なのか。しかし、周囲には何も見えず、その確証はない。
龍玉と虎碧は剣を抜き、臨戦態勢をとる。
「まだ見える……」
虎碧はぽそりとつぶやく。
霧が丸くなり、まるで小さな雲が海面すれすれに浮いているように見えるが。そこには、自分たちがさっきまでいた世界樹の風景が映し出されていた。
「ねえ」
龍玉はコヒョに言う。
「この舟を飛ばせないの?」
「ああ、それは、リオンにしか出来ないんだ。僕が出来ることは……」
もじもじと、申し訳なさそうに、コヒョは答える。
「自分が飛ぶことなんだ」
「ずっこー!」
龍玉と虎碧は、申し訳なさそうに、宙に浮き出すコヒョを見上げて。思わずずっこけてしまった。
コヒョはふわふわと浮き、船の上で弧を描くように飛ぶ。
「ねえあなた、戦うことは?」
「ああ、それも、無理」
「はあ……」
虎碧は苦笑し。龍玉はあからさまにため息をつき、あきれる仕草を見せる。コヒョは申し訳なさそうに舟に下りる。
「でもね」
手を後ろに回して組んで、もじもじと、申し訳なさそうにふたりを見上げて。それから、手を解きほぐし、右手の人差し指を立てて「でもね」と言う。




