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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

「舟!」

 龍玉は思わず声が出て、虎碧は無言でぽかんとする。コヒョはうんうんと得意げに頷く。

 そう、舟だった。舟が池から姿を現したのだった。

 そんなに大きくはない。簡素な小屋付きの漁師の舟、としたものか。造りもいたって簡素。まごうことなき一艘の舟であった。

 子どもたちは、おおー、と感心するように声を上げる。水虎も顔を明るくする。

 しかし、龍玉と虎碧はわけがわからない

「……それで、どうするの?」

「この舟に乗るんだ。あとは世界樹が……」

「はあ、おなじみの展開だねえ」

「……」

 龍玉は苦笑し、虎碧もぽかんとしつつ頷く。が、すぐに顔を引き締めなおし。まず虎碧が跳躍して池の真ん中にいる舟に飛び乗る。

 すると、舟は虎碧が着地すると同時にするすると動いて岸部までゆく。その間、龍玉は舟にたたずむ虎碧の姿が様になっていると笑顔になった。

 やがて舟は岸部まで来て。コヒョは、よいしょ、と注意深く舟に飛び乗り。着地の際には足のつき方が悪く、尻もちをついてしまった。そのすぐ後に、龍玉が長い脚を伸ばして難なく乗る。

「とりあえず、しばらく生活できるだけの食べ物と水はあるよ」

 打ったお尻を撫でながら起き、コヒョはそう言う。これもまたお馴染みというか、小屋の中には水の満たされた水瓶に、饅頭と干し肉の貯蔵された箱もある。

「まあまあまあ、いつもながらのご都合主義には、助けられるわねえ」

「そうね……」

 虎碧も、もう苦笑するしかない。

「それだけ、これからが大変ってことなんだろうね。世界樹もこれがおふたりにできる精いっぱいのことのようだし」

 その言葉に、虎碧は押し黙り、龍玉も減らず口を叩くことはなかった。

 すると、霧が出てきた。あっという間に周囲は濃霧に包まれて、白一色。子どもたちや水虎はきょろきょろし、手を伸ばしたりして、自分が霧に包まれたことを感じる。

 さっきまで晴れて、太陽も輝いていたのだが。それらも、もうすっかり包み隠されてしまった。

「あれは」

 虎碧は濃霧に何かが映るのを見る。龍玉とコヒョも同じように見る。

 草原の中に、ぽつんとひとつだけある池のはずが、霧越しに大海原と繋がっているように見えるではないか。

「こんな世界は初めて見るよ」

「なんだって?」

「どうやら、妖どもが時空を歪めて遊んでいるみたいだ」

「よくわかんないけど、危ないってことなの?」

「うん」

 コヒョは背筋が寒くなるのを禁じ得なかった。龍玉と虎碧も緊張感を一段と高める。

 碧い目は鋭く見開かれ、九つの尾はゆらゆら揺れる。

 舟は動く、霧越しの大海原に向かって。

「気を付けて」

「頑張って!」

「頼むよ!」

 子どもたちと水虎の声がする。龍玉と虎碧、コヒョは声の方に向き、頷く。

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