幻在相交
それから、方向を変え、細長い胴を丸めて大きな円を描いて。虚空に留まり。
その火焔のごとき真っ赤な目を、世界樹に向ける。
「来るか!」
龍玉と虎碧は内から湧き上がる恐怖を抑えて、剣を構える。しかし、火焔を吐かれればひとたまりもなく燃やされてしまう。
しかし、鋼の火龍は、しばし世界樹をじっと眺めた後。また身を直にして、池に向かって勢いよく降下し頭から突っ込み。
激しく水しぶきをあげながら、池の中に沈んでゆくではないか。
「池はここと人界をつないでもいるんだ。鋼の火龍は人界に行くつもりだ!」
コヒョは叫び、龍玉と虎碧は我知らずに駆け出し。池のほとりで止まり、水面を眺めた。
鋼の火龍は池の中に沈み切ったのか、水も落ち着きゆらゆら揺れるのみ。
「……」
どうする。追うか。しかし、追ったところで……。
「行かないで」
子どもたちだ。すっかり恐怖にとらわれてしまって、龍玉と虎碧に縋りつく。
「龍は人の世界に行ったと思うかい?」
「うん、さっき水面に映ったところに行くんじゃないかと」
龍玉の問いにコヒョはそう応える。貴志の実家らしき屋敷が映っていたから……。
「暁星って言ったっけ?」
「うん、貴志さんは私たちの時代より未来の人なのよね」
ふたりは白羅が朝星半島を治めていた時代の生まれである。貴志や羅彩女、源龍と違う時代の生まれである。だからもちろん暁星を知らなかった。
とりあえずの話を聞かされている程度であるが。にわかには信じがたい話である。しかしさっきまでその時代、暁星にいたのである。流浪の身、そして妖の身ながら大陸の生まれである龍玉と、いつしか母とはぐれて流浪の身となった虎碧は大陸の側にいたので、半島のことは詳しくないながら。
かつて天頭山に赴くために白羅入りした時のとは受ける印象が違うことは意識できた。東西にのびる半島の東部と西部と、地理的なものもあるし、なおさら違う印象を受けた。
「……。人の世界は、貴志お坊ちゃんに任せてみよう!」
龍玉はそんなことを言う。虎碧は目を丸くする。
水虎も今は立ち上がって、子どもたちと一緒に龍玉と虎碧を囲んで、
「ここにいてくれるの!?」
と、他の子どもたちと一緒に安堵している。
「でも、ここにいて、どうするの?」
「どーせまたなんか出るんでしょ。ならそれを相手にするまでよ!」
すると、また、池の中心が泡立つ反応を示した。何事かと皆、身構えてみれば。
水面からなにやら先端が突き出たと思えば、それは一気に垂直に立って姿を現し。次いで、倒れるように、ざぶん、と水音を立てて横たわった。




