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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

「ねえ、あんた、何か怖い思いをしたの?」

 龍玉もしゃがんでそう問えば、水虎はかすかに頷く。それから、目からぼろぼろと涙が溢れては落ちる。

 すると、コヒョはそばに駆け寄った。他の子どもたちも、世界樹から駆け出し、寄り添い、水虎を囲んだ。

「怖かったよおー」

 水虎はへたりこんで、わんわん泣き出す。緊張の糸がぷっつり切れたように、へたりこむ。

 顔なじみの子どもたちの存在が、水虎に安堵をもたらし。同時に脱力もさせたようだ。

 それでも必死に声を絞り出す。

「火龍が現れて、おいらの里を荒しているんだ!」

「火龍!」

 コヒョは魂消たように驚く。他の子どもたちも騒然とする。すると、にわかに池までが子どもたちとともに騒然とするように、ぶくぶくと泡立つ。

 まるで熱せられて沸騰しているように。

「わあー」

 と、子どもたちは悲鳴を上げて逃げてゆく。コヒョは思わずへたり込み、一緒に水虎もへたり込んでしまい。

「もう、だらしないね!」

 龍玉はコヒョを、虎碧は水虎を抱えて池から離れて。世界樹のそばまで逃げる。

 他の子どもたちも世界樹の木陰に身を寄せ合って、戦々恐々と様子を見ていれば。ついに池の水は弾けるように噴き上がった。

「あ、あ、あああーーー!」

 子どもたちはいよいよ甲高く悲鳴をあげ。コヒョと水虎は下ろされたなりに、へたり込んだまま呆然として。

 龍玉と虎碧は剣を抜き、吹き上がる池の水を見据える。

「龍……」

 ふたりはぽそっとつぶやき、一層警戒する。

(でも、龍に勝てるのかしら?)

(あーもう、やっかいだねえ)

 その姿を見て、勝機があるとは、率直に思えなかった。

 蜥蜴や蛇のような爬虫類的なものを想像していたのだが。なんとその火龍は、その細長い全身が銀光を放つ鋼鉄に覆われており。生き物というよりも、匠の業により造り出された工芸品のような硬質さを感じさせるのであった。

 大口を開け、天に向かって池から飛び上がり。雷鳴を思わせる彷徨を轟かせて、くうを揺らし。龍玉と虎碧は肝を打たれるようなものを覚えて、一層踏ん張って剣を構えて。

 子どもたちは皆、悲鳴を上げて、泣き喚いて、へたり込む有様。

「そんな、鋼の火龍がここまで来るなんて」

 コヒョはようやく口を開いた。水虎などは、その姿を見てたまらずに白目を剥いて失神してしまった。

 天に向かって昇る龍は雷鳴の如き咆哮をあげ。そのついでのように、真っ赤な火焔が勢いよく吐かれた。

 それは空をも燃やすのか、火焔の周囲がやけにぼやけて見える。

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