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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

 詳しくは話さず、コヒョはふたりのそばで、座らずに立って、遠くを眺めている。気になっているようだ、何が来るのか。

 すると、龍玉はおもむろに剣を抜き。光り、自分の目を写し出す剣身を凝視するのだった。

 さっきとは打って変わり、真剣な眼差しだった。

「さて、どんな奴らが来るんだい?」

 龍玉に続き、虎碧も剣を抜き、同じように剣身に写る自分の碧い瞳を凝視する。

 長年江湖を渡り歩いた勘が、知らせるのだ。備えよと。

 ざぶん。

 水の弾ける音がする。この池には魚などはいないはずなのに。

「きゃあー」

 子どもたちは咄嗟に世界樹の木陰に逃げ込む。コヒョも、

「わあー」

 なんてびっくりした声を出し、腰を抜かしてへたり込んで。龍玉と虎碧は剣を構え、臨戦態勢。

 弾ける水音、弾ける水面。池から飛び出す何か。

 しかし、

「はあー」

 と、気の抜けたような声を出してしまった。

 池から出たのだ、ひとり、と言うべきか一匹と言うべきか。

 大きさは世界樹の子どもたちと同じくらい、しかし全身が鱗で覆われている半分人間半分魚のような容姿。特徴的なのは膝頭に虎の手に似た鋭い爪があることだ。

 水辺に棲み、普段は虎の手のような爪のある膝頭を浮かべてのんびりしているという妖の類だが、その性格はおとなしい。

「なんだ、水虎すいこじゃないのよ」

「……」

 龍玉は苦笑し、警戒を解くが。虎碧はその様子のおかしさが気になる。

 おとなしいはずの水虎が、鋭い眼差しでこちらを睨んでいるのだ。

「ねえ、あなたたち、水虎になにかしたの?」

 振り返って子どもたちに問うが、皆首を横に振る。コヒョも、ようやく立ち上がって、ふたりの後ろに隠れながら。

「何もしてないよ」

 と応える。

 水虎は普段はおとなしいが、いたずらをされればしっかり仕返しに噛みつくとされる。

「ねえ、この池も、ここと他の世界とをつなげているの?」

「うん。時々、水虎が遊びに来るんだけど」

「顔見知り?」

「まあ……」

 コヒョは戸惑った面持ちで水虎を見据える。

「あんな突然な出方をするなんて、いたずらをするようなこともなかったし。その上にあんな怖い顔されてたら、そりゃ怖くて逃げたくなるよ」 

 他の子どもたちは、顔見知りのはずの水虎を恐れて、世界樹の木陰に逃げて身を寄せ合っている。

 しかしそれにしても、世界樹の子どもたちと、妖の水虎が顔見知りで時々遊ぶだなどと。この世界は閉ざされた世界ではなく、異世界との交流もあるとは。

「ねえ、どうしたの? 何かあったの?」

 虎碧は剣を鞘に納め、水虎に語り掛ける。しかし、怖い顔をして黙ったまま。それでも、よく見れば足は震えている。

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