幻在相交
きゃあー、と他の子どもが悲鳴を上げる。
雲の巨大皇帝の拳がうなり、地上の羅彩女に迫る。これにぶつけられれば、ひとたまりもなく打ち砕かれてしまいそうだ。
「なんの!」
羅彩女は跳躍し、迫る拳の上に乗り。迫る力を生かしてさらに跳躍し、雲の巨大皇帝の脇に着地し、一気にその後ろへと駆け。打龍鞭を振りかざす源龍と合流して、軟鞭を構える。
世界樹のそばには、子どもたちが不安そうな面持ちでいる。不幸中の幸いというか、雲の巨大皇帝は世界樹や子どもたちに関心を示さず。羅彩女の持つ銅鏡に執心している。
振り返ってもろ手を伸ばし、源龍と羅彩女に襲い掛かり。銅鏡を奪おうとする。
「あの銅鏡は世界樹の世界と人界とをつないでいるんだ。雲の皇帝はそれを欲しがっているんだね」
「その鏡を奪って、人界に行きたい……。鳳凰に食べられてもなお、現世に執着しているってこと?」
「そういうことだね」
「かあー、なんてがめつい」
龍玉は侮蔑の念をあらわにする。九つの尻尾もゆらゆらしている。
すると、ふっ、と池から源龍たちが消えた。映されなくなったのだ。
「こら、中途半端にお見せでないよ」
龍玉は立て続けに中途半端に見せられて、苛立ちもあらわにする。
「これどうぞ」
他の子どもがふたり、茶の乗る盆と饅頭の乗る盆を差し出す。茶は何の変哲もない茶碗の茶だが、饅頭は龍や翼虎、鳳凰に麒麟、三本足の烏といった幻獣たちだった。
なかなかの造形で、腕の立つ職人の手によるもののようだが。
「すごいわね、どこで作ってるの?」
「わかんない、世界樹が出してくれるんだ」
「そう……」
虎碧は質問にそう答えられ、納得できぬまま茶の盆を受け取り。龍玉は饅頭の盆を受け取り。
「あら、ありがとう。いただきまーす」
と、素直にいただく。まず自分の名にもある龍の饅頭から。
「うん、美味しい美味しい」
一口食って、茶碗を取って茶を喉に流し込む。すると、茶碗の底からまた茶が湧いてくる。
「まあ、すごいわね……」
碧い目を見開いて虎碧は驚く。饅頭は造形こそ素晴らしいが、変哲もないもの。しかし、茶碗から茶が湧くなど。
「どうせあのふたりみたいに、あたしらも何かと戦わされるんだから。今のうちに腹ごしらえしといたほうがいいよ」
「うん」
ふたりは池のほとりで腰かけて、饅頭と茶をいただき。腹を満たした。腹を満たせば、心もおのずと満たされるものだった。
他の子どもが空になった盆と、茶が湧く茶碗の盆を持って、どこかへとゆく。すると、その子どもは、すう、と霧のように消えた。
「ああ、驚くことはないよ、返しに行ってるだけだから」
「あんなこともできるの」
「まあね」




