幻在相交
「広い家に住んでるんだねえ」
「すごい」
貴志がおぼっちゃんなのはわかっていたが、それを物理的に見せられて。ふたりは思わず息を呑んだ。
すると、途端に池からそれらの景色が消えて。自分たちの顔が写る。
「え、なんだいなんだい。中途半端にお見せでないよ」
龍玉は口をとがらせて言うが、子どもたちは意に介する様子もなく思い思いに遊ぶ。
その中で、ひとり、男の子がふたりに付き添う。黒髪の黒い瞳、人種的には龍玉と同じ子どもか。
きょとんとする虎碧の碧い瞳をみて、にこっと微笑む。
「ごめんごめん、世界樹ってさ、気まぐれだから」
「気まぐれって。……あんた、リオン知ってる」
「うん、知ってるよ。彼はマリーと一緒によく頑張ってるよ」
「私は虎碧。ねえ、あなた名前は?」
虎碧に名を聞かれ。子どもはにこりと微笑む。褐色の肌のリオンはおどけた印象を受け、金髪碧眼のマリーの子どものころは、ませた印象があるが。この子どもは、目鼻立ちはくっきりし、笑顔も可愛らしく、また凛々しい感じだが、同時にどこか堅物そうな印象を受ける。
「あたしは龍玉。って知ってるんじゃないの?」
「お察しの通り、おふたりの事はよく存じ上げてるよ。それで、僕は……」
子どもが名乗ろうとしたら、にわかに池が光り。皆の目がそこに向く。名乗りどころではなさそうだ。
子どもは苦笑し、早口で、
「僕はコヒョ!」
と名乗り。皆と一緒に池を覗きこむ。
「あれ、今度は源龍のあんちゃんじゃないの」
「羅彩女さんも」
池に映し出されるのは、ここと同じ、大樹がそびえ立つ草原で。源龍と羅彩女が、巨大な雲の皇帝と追いかけっこをしている。
羅彩女は右手に軟鞭、左手に銅鏡を持ち。駆けて。それを雲の巨大皇帝が追い、それをまた源龍が打龍鞭を振りかざして追っている。
「なにがあったの?」
虎碧は碧い瞳を凝らして池を見据える。尋常な光景ではない。
「ああ、こりゃ大変だ」
コヒョはいっちょまえに顎に手をやり、うーむと唸る。
「人食い鳳凰の天下に食べられた人たちの魂が、第一の世界樹に来ちゃったんだ」
「なにそれ?」
龍玉と虎碧はきょとんとする。第一の世界樹とな?
「うん、世界樹は複数あるんだ。池に映ってるのは第一、ここは第二なんだ」
「第三、第四、ってところもあるの?」
「うん」
虎碧の質問にしかめっ面で頷き、コヒョは池を覗きこむ。
「世界樹には結界が張られて、妖を防いでいるのに。それを破るなんで、よほどのことだよ」
「そんなにやばいの?」
「うん。とても危うい。第一の世界樹は危機を察して、源龍さんと羅彩女さんを呼び寄せたんだね」
「……ねえ、もしかして、ここも、同じような危機が来るってことは?」




