幻在相交
打龍鞭は鋼を鍛えた鋼鉄の棒状の打撃武器である。これにぶつけられれば、皆ひとたまりもなく打ち砕かれてゆくという業物。使い手の源龍も戦いの玄人。
「くそお、なんて野郎だ!」
「ふおおおー」
不気味な唸り声をあげ、雲の巨大皇帝は手を引っ込め、その勢いのまま背伸びをし。もろ手を挙げて、威嚇の体勢を見せる。
まるで大猿か熊のような獣性である。
青銅鏡が光る、光っては消えを繰り返しの点滅をする。
「これは」
羅彩女は鏡を覗きこむ。
鏡の中で、龍玉と虎碧が新たな得物を手にして、大樹、もうひとつの世界樹のそばで佇んでいる。
こんな場所がもうひとつあったなんてと思いつつ、思わず鏡を覗きこむ。
「おい!」
源龍の声で我に返れば、雲の巨大皇帝の手がこちらに伸びてくる。この青銅鏡を狙っているのはすぐに分かった。
「ふん、あげないよ!」
羅彩女は左手に青銅鏡を持ち、右手に軟鞭を持ち。雲の巨大皇帝の手から逃れ。それを源龍が追った。
さて、龍玉と虎碧である。
新たな得物、龍玉は青龍剣、虎碧は赤虎剣を得て。しかし他にすることはなさそうで。広がる青空で雲がのんびり泳いでいる。
無邪気に子どもたちは、きゃっきゃと声を弾かせて遊んでいる。大人はいない。だからか、争いもなく、平和なものだ。
ここの風土も、暑すぎず寒すぎず、まことに心地が良い。極楽浄土とは、このようなところかと。自然と気持ちが安堵して、木陰に座ろうとした。という時。
子どもが数人、こちらにやってきて。
「池に行こうよ」
と、それぞれの手を引く。
「池?」
無垢な笑顔で言われたからか、龍玉も虎碧も抵抗をせず、引かれるままに子どもたちについてゆけば。
なるほど確かに池が見える。
池のほとりで、子どもたちはのんびり寝転がったり。蹴鞠をしたり。薄着で浅瀬で水遊びをしていたりと。思い思いに過ごしている。
釣りをしている子どもはいない。どうやら魚など、他の生き物はいないようだ。
「あッ!」
「貴志おぼっちゃん!?」
池に何か写っている。
反射して己の顔が見えるのではない。
水遊びをしていた子どもたちは、龍玉と虎碧が池の水面を覗きこむのを見て、すぐに出て。きゃっと声を弾かせ、どこかへと駆けて行った。
水面は映し出す、暁星の都、漢星の、李貴志の実家であり、宰相の李太定の邸宅を。
しかし龍玉と虎碧は李家の邸宅を知らない。貴志がいて、広い庭園で老夫妻に対し。
「ただいま帰りました、父上、母上」
と、慇懃に言っているところから、実家に帰ったのだと考えた。




