幻在相交
木陰には子どもたちもいるのだが、それを見事に避けて、地面に着地した。
二振りとも柄も鞘も黒く、何の変哲もない汎用のものらしき平凡な見た目。そして同じ拵えの柄と鞘。ただ柄の先の房の色は、一つは青く、一つは赤い。
ふたりは落ちた剣を、怪訝な顔つきながら見下ろし。まず龍玉が青い房のを拾い、柄を握り、少し鞘から抜けば。
きらりと、剣身が光る。虎碧も続いて、赤い房のを拾い、鞘から少し抜けば。光る剣身に、己の碧い目が写し出される。
「これは、すごい業物ね」
剣身に写る碧い目と見つめ合いながら、思わず唸る。
「二振りの剣。青きは青龍剣、赤きは赤虎剣」
「えっ?」
「えッ!?」
虎碧と龍玉は突然脳裏に閃いた言葉に驚く。自分ではない。他の何者かが、己の心の中で語り掛けたような感覚。それも、老若男女のいずれでもない、言葉が聞こえた。
子どもたちはにこにこ笑顔で龍玉と虎碧を眺めている。
剣を鞘に収め切り、右手に持って。周囲を見渡すが、自分たち以外に年長者はいない。
「世界樹が語りかけたの?」
虎碧はぽかとして、木の幹を見上げる。
で、それを青銅鏡越しに見る源龍と羅彩女も、思わずぽかんとする。
「世界樹はここだけじゃないのかよ」
「他にもあるってこと?」
「おろろろろろろろろ~~~~~~~~~」
突然、不気味な声が轟く。そして分厚い雲が不気味に光る。
雷ではない。まるで人の声である。天から声がする。しかし、ありがたさはなかった。ただただ不気味さがあった。
子どもたちは、きゃあー、と悲鳴を上げ。源龍と羅彩女にすがる。
「なんだ、なんだってんだ、あれは」
「鳳凰の天下に食べられた人の魂が、叫んでいるんだ」
褐色の肌の女の子が源龍の足にすがりつきながら言う。
「鳳凰に食われた奴の魂だと!」
「おろろろろろ~~~~」
また、光ると同時に不気味な声。鳳凰に食われた者の魂だという。
「そいつらって、やばいの?」
すると、青銅鏡も強く光り出す。
それにしても、古くすっかり青くなった青銅の鏡が、いかに鏡面は磨かれているとはいえ。よく光るものだと感心せずにはいられない。銅鏡も新しいものは金に引けを取らぬほど光り輝くが。
ともあれ、それを抱く子どもも驚きつつも、しっかり持って離さず。鏡面を向こうに向ければ。
鏡面から発せられる光は、分厚い雲向けて、ひねりをくわえながら天高く昇ってゆく。しかも昇るにつれて、大きな円を描き。それが雲に達するや。
「うえ」
「なんじゃこりゃあ」
「いやあー」
皆が唸った。
見よ、分厚い雲の、光に当てられた部分に、不気味な人面が苦しそうに悶える表情を見せているではないか。




