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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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幻在相交

 木に落雷する怖れがあるから、木の下での避難は禁忌だが……。

「おい、こんな時はどうしてるんだ」

 源龍は世界樹に怒鳴った。しかし応えはない。羅彩女も舌打ちする。

 空は雷鳴が轟き、分厚い雲は妖しく光り。瞬間、下界を照らし、揺らす。

 そのたびに子どもたちの心も揺らされて、悲鳴を上げ、寄り添い身をすくめる。

「……仕方ねえ!」

 源龍は駆け出し、少し離れたところで、自分の武器の打龍鞭を縦に、地面に突き刺した。

 よくわからないが、雷は木に落ちもするが、金属にも落ちるのをそれまでの経験から知っていた。

 鋼鉄の打龍鞭を雷避けに立てて、世界樹に落ちるのを防ごうというのだ。

「もし敵が来たらどうするの!?」

「その時はその時だ!」

 皆のいる世界樹のもとまで来て、空を見上げる。

 どうも嫌な予感がする。ひとときの間天候が悪くなっただけとは思えなかった。

 しばらくして、雷鳴がやむ。

 一同ほっとする。このまま、晴れてくれればいいのだが。というとき、また光が発せられた。

 あの鏡だ。劉開華と公孫真が追っ手と戦いながら逃げているのを見せられた鏡が光ったのだ。

 あの青銅鏡だ。

 子どもがひとり、青銅鏡を拾って持ってきて。それを覗いてみれば。

 鏡面に写るのは己の姿、ではない。また、どこかの風景。

「これは、ここ?」

 羅彩女がぽそっとつぶやく。

 そう、鏡面に映るのは、ここと同じ風景。広がる青空のもと、だだっ広い草原に、大樹が一本、大きくそびえ立っている。

 その周辺で、ここと同じように、十数名の子どもたちが遊んでいる。

 皆、服装は緑の服に統一されてはいるものの。髪の色に眼の色、肌の色はさまざまだった。

 そこに、ひときわ背の高い者がふたり。

「ん、こりゃ九尾の狐じゃねえか」

「んまあ、虎碧ちゃん!」

 源龍と羅彩女は思わず声が出る。大樹の木陰には、龍玉と虎碧。わけがわからなそうに、ぽかんとしている。

 そして、ところは移る。


「ここって」

「世界樹なのかい?」

 木陰に突っ立つ龍玉と虎碧は、周囲を見渡しながら、自分たちが知らぬうちに世界樹のもとに行かされたのだと思った。

 子どもたちがふたりのそばまでやってきて、

「ようこそ!」

 などと、笑顔で歓迎する。

 服装は、暁星ヒョスンのチマチョゴリのままである。愛用している剣はなく無手である。で、龍玉の腰からは九つの尻尾。

「ねえねえ、あたしらに何をさせたいのさ!」

 虎碧は碧い目をあちらこちらに向ける。

 普段の集まりの中で自分だけ眼の色が違うのだが、ここでは様々で。かえってここの方が何か安堵を覚えるものだった。

 がさ、と音がしたかと思えば。鞘に収まる剣が二振り、茂れる枝葉の間から落ちてきたではないか。

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