捏的測験
同じくして悪鬼どもも突然落下して、消えてなくなり。悪鬼にとり憑かれた者は正気を取り戻した。
源龍や羅彩女に貴志は呆気にとられながらそれを見て、香澄は淡々とし、子どもはほっと一息ついてしゃがみ込む。
「なるほど天下が人を食い物にするとはな。なかなか文学的な話じゃねえか」
源龍はよくやったと貴志の肩を軽くたたいてねぎらい、羅彩女も嬉しさを弾けさせて貴志の手を握り「ありがとう」と言い。
淡々としていた香澄も、ここでは微笑みを見せた。
貴志も安堵して笑顔になるが。
(天下が人を食らうか、恐ろしい話だ)
ふとふと、そんなことを考えた。
子どもはというと、ふところから何か掌大の四角いものを取り出す。白い厚紙のようだが、その厚紙から声がする。
「次の段階に進めてもよいでしょう」
穏やかそうな女性の声だった。子どもの持つ厚紙には、なにか絵が映し出されている。それは絵と言うにはあまりにもくっきりとしたものだった。
その絵は、あの世界樹だった。子供は厚紙を通じて世界樹と話をしているのだった。
「僕もそう思います。では、しばらくこのまま進めます」
「あなたも怖い思いをしますよ」
「はい。でも、僕もこの人たちと冒険を楽しみたいです」
「そうですか。くれぐれも気を付けて」
そこで絵が映るのが終わり、ただの白い厚紙になり。ふところに戻した。
人食い鳳凰は退治されて。それを遠巻きに見ていた臣下たちはただただ驚いて、助かった喜びから源龍らの面々のもとまで駆け寄って、
「よくやった、よくやった」
と言うのかと思いきや。
「見れば下賎の者どもではないか。ここはお前らのいていい所ではない、やることをやったら、出て行かぬか」
傲然と言い放ち。源龍は目をいからして臣下らを見据え、今にも打龍鞭を振るって打ち据えそうな雰囲気であった。
細身の身体に豪奢な官服をまとうその臣下は、源龍や貴志たちをあからさまに見下していた。
貴志は源龍の雰囲気を察して、すぐに打龍鞭を握る右手首を握った。
「こいつら、自分らが助けられたのも忘れて」
羅彩女も怒りで目を血走らせる。
香澄と子どもは淡々としている。
「これが、腐敗」
宮廷の腐敗を聞いたことはあるが、まさかここまでとはと、強い失望を禁じえなかった。
鳳凰は消えてなくなった。
(このような下賎の者どもに借りなど屈辱。それにあの化け物が消えてなくなるとは。証拠はないということ)
臣下、鄭拓はにやりをほくそ笑んだ。
「であえであえー、謀反人じゃ、謀反人をとらえよ!」
「なんだと!」
舌打ちをしつつも、宮殿を出ようとした面々に向かい、鄭拓は謀反人じゃと叫んだ。
捏的測験 終わり




