幻在相交
「はあッ!」
「とおうッ!」
ふたりは馬上にあって、気合の声を発し。迫り来る兵の刃をかわし、槍で弾いて。あるいは立ち塞がる兵を馬脚で跳ね飛ばし、必死に逃げている。
「おのれ鄭拓め!」
公孫真は兵を槍の柄で横殴りに弾き飛ばすついでに発する叫び。
「鄭拓って」
「知らねえ」
劉開華も色々抱えているようであるが、心ない臣下のことまでは話さなかったので源龍と羅彩女にはわからないながら。その、鄭拓という者が反乱でも起こしたのか、というのは想像に難くない。
ふっ、と鏡はそれを写すのをやめて。覗きこむ源龍と羅彩女の顔を写す。
「おい、半端に見せるな!」
結局何を見せたかったのかわからず、源龍は声を荒げるが。鏡を持つ子どもは「ひゃっ」と一声発しただけで、こたえていなさそうに笑って逃げてゆく。
世界樹は成り行きを見守るばかりで、黙して語らず。
「なんか、脱力させられるねえ」
ひどく疲れたとばかりに、羅彩女は仰向けに寝転がった。降り注ぐ陽光が枝葉によって遮られて、その隙間から木漏れ日がちらちらする。
風もなく、快適で過ごしやすい。世界樹の木陰は、気持ちよく寝転がれた。
源龍は足を伸ばして木の幹に背をもたれ掛けさせた。
「なにもしねえで、いっそ子供に戻りてえなあ」
ぽそっと、そんなつぶやきが漏れた。
いつの間にか、散った子どもたちがそばによってきて。寝転がったりじゃれあったりして、思い思いに振る舞う。
「よしよし」
と、ある子どもが泣いている子どもをあやしているのが見えた。あれは、と目をやれば。かつての打龍鞭の持ち主だった虎炎石。
彼は己心に負けた罰として子どもに戻された、ただ子供に戻されただけではない。めそめそと泣く子どもに戻されたのである。
「む……」
それを見て、やっぱり戻らなくてもいい、などと考えを改めた。
ふと、盆を抱える子供がいて。その盆には、十二支の姿の饅頭が乗せられていて。また別の子どもは茶の入った碗ふたつ乗せた盆を抱えて。こちらにやってくる。
「まだ時間があるから、休んで、腹ごしらえしなさいってさ」
「まあー、気が利くじゃない!」
寝ころんでいた羅彩女はがばっと起き上がって、ありがたく饅頭の乗せられた盆を受け取り。茶の椀の盆は源龍の前に、どうぞと置かれて。
用の済んだ子どもは、きゃっ、と声を上げて駆けて離れて仲間たちのもとに戻り、遊びに加わる。
「いやあ、極楽極楽」
羅彩女は満足そうに饅頭を頬張る。源龍も、もらえるものはもらうと、手を伸ばし饅頭を掴んで口に運び。茶で喉を潤す。
「ん?」




